十代で落語家への道を選んだ“金の卵” 弱肉強食の世界で、どう育っていくのか楽しみだ

[ 2023年9月14日 15:01 ]

表情豊かに演じる桂れん児
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 【笠原然朗の舌先三寸】落語芸術協会に所属する前座、桂れん児と桂南海(なんしー)がこのほど、東京・高円寺で落語会、第1回「竹芳亭 前座だけ会っ!?~十代入門同志で」を開いた。狭い会場に集まったの観客は26人。補助席まで出る盛況ぶりだった。

 れん児が「桃太郎」「金明竹」を、南海が「平林」「子ほめ」と2席ずつ、のびのびと演じて会場は笑いに包まれた。いずれも寄席で番組が始まる前の「開口一番」で前座がよくやる前座噺である。

 れん児は21年10月に桂歌助に弟子入りした20歳。南海は20年2月、3代目桂小南に入門。共に高校を卒業後、十代で落語家への道を選んだ。会の「十代入門同志」はそういう意味だ。最近では大学を卒業して入門するのは当たり前。脱サラ組も多い中、十代の入門者は“金の卵”である。

 れん児は「こういう会を開くという生命力やノウハウを、自分と同じ10代で入門した前座さんたちに伝えたい」とオープニングトークで話す。度胸のよさも彼の魅力だ。

 東京の落語家の“身分”は3つ。「前座」「二つ目」「真打ち」で、修行時代の前座が4年。二つ目が10~11年。入門からおよそ15年で「真打」に昇進する。「真打」になると寄席でトリをとり、弟子を取ることもできるようになる。

 「できる」というだけで、そこは実力がモノを言う世界だ。真は打ったものの一生、寄席でトリをとらずに終わる落語家も多い。

 「前座」は寄席に通い、楽屋で雑用をこなすのが主な仕事だ。掃除、師匠連中の着替えを手伝ったり、お茶を出したり。昼席と夜席があってそれぞれ3~4人の前座で回す。なので「開口一番」で高座に上がるのは順番となる。楽屋は前座にとっての研修所のようなもので、ここで落語家としてふるまいや、生きるためのイロハを学ぶ。

 楽屋に入ってもらえる報酬は1000円。これが定収入となる。時給に直すと200円程度か。師匠連中に気に入られれば地方公演など“ワキ”の仕事の雑用係で使ってもらえることもある。なので「前座の時代は何とか食っていけた」という話を何人もの落語家から聞いた。

 大変なのは「二つ目」時代。寄席に呼ばれて高座に上がることもあるが、ギャラはすずめの涙程度。ワキの仕事もほとんど入ってこない。自らプロデュースした独演会などを開いたり、結婚式の司会のアルバイトをして、収入の道を模索する。サバイバルゲームに参加することを余儀なくされるのだ。なのでこの時代に廃業に追い込まれるか、定収入のある伴侶を見つけ、結婚する人も多い。

 れん児は“年期”が明けるまであと2年ほど。子どもの頃から落語が好きでこの世界に飛び込んだ落語少年。桂歌丸さんに憧れ、直弟子である歌助の門を叩いた。辛いといわれる楽屋仕事も「落語の雰囲気が好きだから楽しいですよ」と言う。

 現在、覚えた噺は19席とか。歌助から習った噺のほか、落語芸術協会の別の師匠から習った噺もある。

 「高座にかけてみたい噺ですか?う~ん、円朝ものでしょうか。もちろん真打ちになってからですけど」

 歌丸さんが得意とした「円朝もの」を上げるあたりは恐るべしハタチ。落語の中で与太郎が言う。「二十でハタチなら、三十はイタチか」。この若者が目指すのは「イタチ」ではあるまい。天駆ける龍か、弱肉強食の世界で頂点に立つ虎か?どう育っていくのか楽しみだ。

 れん児がこの日、トリで演じた「金明竹」の長い口上。「わてな、中橋の加賀屋佐吉かたから使いに参じまして…」から続く一節はこの噺の見せ場。早口で最後までつっかえずにできて、会場から温かい拍手が起こった。これはご祝儀のようなもので、成長したあかつきには「言い立て」の妙で観客が息を飲み、無言となるぐらいの芸を身につけて欲しい。先は長い。

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