29歳で4冠達成の谷川九段 藤井新王将の偉業に感嘆「まさか10代で超されるとは」

[ 2022年2月14日 05:30 ]

藤井新王将誕生から一夜明け

第1図(王将戦第4局76手目△4四銀まで)
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 【谷川浩司九段eye 王将戦7番勝負を読む】将棋界のレジェンド・谷川浩司九段(59)が藤井聡太王将(19)の誕生についてスポニチ本紙に思いを語った。29歳の時に4冠を達成した谷川だが、19歳の藤井の5冠獲得に「感嘆するのみです」と称える。藤井の武器は、ミスのない指し回しと長時間でも途切れない集中力だという谷川。“藤井時代”の訪れと、今後の将棋界の展望を分析した。(小田切 葉月)

 「過去に5冠を達成された人は、時代を築き上げた人たち。しかもその後10年は、その人中心の時代でした」。藤井の5冠達成を大盤解説の配信会場で見届けた谷川は、そう語った。故大山康晴15世名人(享年69)、中原誠16世名人(74)、羽生善治九段(51)に次ぐ4人目の快挙。昭和と平成の大棋士に肩を並べ、時は令和。「藤井時代。そう言ってもいいかもしれません」と話した。

 谷川自身も1992年に竜王、王位、棋聖、王将の4冠を獲得した。当時29歳。「いつかはそうなるとは思っていましたが、まさか10代のうちに超されるとは…ただただ感嘆するのみです」と苦笑いだった。

 決着の第4局では76手目の△4四銀(第1図)以降の手順に着目。藤井陣に渡辺がつくったと金が拠点となり、守りの金をはがされる展開が想定される。一見やりにくい手だが「藤井さんの攻めの急所である6~7筋をすでに押さえた上で、タイミングよく王を逃げればいいという判断。攻守を捉えた、緩急自在な一手」と振り返った。

 次々と最年少記録を塗り替える藤井。その強さの秘密について谷川は「長時間途切れない集中力と、終盤でのミスのない指し回しだと思います」と語った。例えば王将戦では2日制で、時には16時間以上の死闘になる場合もある。「長い持ち時間、ずっと集中しているのは無理。ですが、藤井さんにはその集中力の切れを感じない」。第3局では詰むや詰まざるやの緊張状態の中、23手詰めを読み切る姿も見せている。「人間じゃない、と言われないと説明できない」と笑った。

 藤井の強さの一方、今回失冠した渡辺明名人(37)にも寄り添う。谷川は96年第45期王将戦で7冠を目指す羽生と対峙(たいじ)し4連敗。自身は無冠となり、羽生は7冠制覇を果たした。

 「当時は“羽生さんに勝つにはどうすればいいか”をずっと考えた。将棋の調子が悪かった時期もあるが、無冠になったことで吹っ切れた。結果を求めすぎず、あえて定跡化されてない形を多用して指す楽しさを改めて感じ、自分の将棋を見つめ直しました」

 現在の渡辺に、昔の自分を重ねる谷川。「藤井さんはまだまだ強くなりますが、対藤井を意識しすぎてはいけない。今の20~30代のトップ棋士がどれだけ差を詰めていくのか注目したい」。熱いエールで結んだ。

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