高良健吾 “ヤバい場所”を求めて地球を歩く 終わりなき旅路と役者道

[ 2019年7月2日 10:30 ]

終わりなき旅へ。ポーズを決める高良健吾(撮影・会津智海)
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 【夢中論】グランドキャニオン、ボロブドゥール遺跡、カリブ海…。俳優の高良健吾(31)が人生の楽しみにしているのは、世界各国の自然を見て回る一人旅だ。想像を絶する自然に触れることが気分をリセットし、また次の仕事に向き合える。海外の景色の雄大さは演技への考え方も変えさせるほどだ。

 行き先を決めて、宿を確保すれば、最低限の着替えだけを持って出発する。基本的に一人旅で「ここを見たい」という場所だけは決めて残りの行動はノープラン。行き先を選ぶ基準は自然の多い場所で「今はモロッコやラオスが気になっています。海とか山とか砂漠とか、人の手が加えられていない場所が好きです。自分も相手もお互いを知らないところで“ヤバい所に来ちゃったな、どうしよう”って中で生活するのがいいんです」。

 これまでに訪れた外国は12、13カ国ほど。次々と映画の撮影に追われる人気者で、実際に旅ができるのは1年に1回ほど。それでも、旅行ガイドや雑誌の特集は常にチェックして、次に行きたい場所を探している。

 “ヤバい所”の代表格が米国のグランドキャニオン。12年に2泊3日のキャンプを行い、現地の案内人のガイドで、何時間もかけて標高約2500メートルの高地へ上っていった。たどり着いた先には最大深度1800メートル、どこまでも広がっていくような峡谷が現れた。「周りに誰も居なくて音が全くしない場所で、しばらく言葉が出なかったです。あれ以上の景色はもう見られないんじゃないかと思います。“感動するってこういうことなんだな”って」

 ヤバいのは自然だけではない。16年に行ったキューバでは偶然「ザ・ローリング・ストーンズ」のフリーライブを見ることができた。米国とキューバの国交が回復し、当時のオバマ米大統領が同国を訪問した直後、ハバナのスポーツ複合施設シウダード・デポルティーバで行われた120万人を動員したともいわれる伝説的ライブ。そういった背景を全く知らずに旅行に行き、「民宿に泊まっていたら他の客が“ストーンズのライブが見られるぞ”って興奮していて。会場に行って、途中で地面が揺れていると思って振り返ると、信じられないほどの人であふれ返っていた。予想もしないところでとんでもないものを見られました」。

 派手な観光地ではなくても、行きたいと思った所に行くのが高良の旅。17年には、過去に両親が新婚旅行で訪れたインドネシアのジョクジャカルタ市に行った。5日間で世界遺産の遺跡を見たり、現地の伝統芸能である影絵芝居を鑑賞したり、のんびりと過ごした。「そこでしかできない体験ができれば、イベントはなくても楽しいです。何もない田舎町でしたけど、本当にリフレッシュという感じでした」

 両親がそろって旅行会社に勤めていて、子供の頃から国内外問わず家族で出掛けていた。20代前半の頃くらいまでは、旅行に行っても朝まで飲み明かしたり、はしゃぎ回るような楽しみ方をしていたが、世界の自然を目にしていくうちに嗜好(しこう)が変わっていった。「ちょっと早めに目覚めて朝の街をふらっと歩いたり、何げないことが凄く好きになった。人として落ち着いてきたのかなって思います」

 俳優としての思いも、20代後半を迎えたあたりから変化。「昔は与えられた役に頑張ってなりきろうって。その役としてカメラに映っているつもりで、がむしゃらにむき出しの状態で演じていた。今は“なりきれるわけがない”と思っている」
 ネガティブに聞こえる言葉だが、それだけ余裕ができたということ。「声も姿も高良健吾なので、役を演じていても、画面に映るのは自分だということを意識するようになった。今はなりきれないのを分かった上で、どう映っているのが一番良いのかを考えています」

 そうして映画界には欠かせない俳優の一人へと成長してきた。旅に行く時は「ここに行きたい」という目的地があるが、役者としての目的地はどこなのか。「スポーツ選手は体がついてこなくなって引退することがあるけれど、この仕事はそれがない。やればやるほど魂が磨かれて、良くなっていくものだと思っているので、いつまでも続けていくために、今を一生懸命やろうと思っています」

 デビュー15年目。31歳になり、演技もコメントも休みの過ごし方も大人になった。役者として旅を続けていくために、自然にカメラに映る俳優として、自分が映る画面の中を“ヤバい場所”に変えていく。

 ≪楽しんで演じた“狂気役” 19日公開「アンダー・ユア・ベッド」≫19日公開の主演映画「アンダー・ユア・ベッド」では、大学生時代から11年間思い続ける女性の自宅に侵入したり、近所に借りた部屋から望遠鏡で監視したりして生活する男を演じている。「ヒリヒリするような狂気を持った役で、若い頃なら何も考えずに思いっきりやるだけだった。30代になってどう演じられるんだろうと考えながら、でも楽しんで演じられました。若さのない狂気が出ているのかなと思うので、見た人がどう感じるか楽しみです」と振り返った。

 ◆高良 健吾(こうら・けんご)1987年(昭62)11月12日生まれ、熊本市出身の31歳。05年に日本テレビ「ごくせん」でデビュー。12年に「軽蔑」で日本アカデミー賞新人賞、14年に「横道世之介」でブルーリボン賞主演男優賞を受賞。1メートル76、血液型O。

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