千原ジュニア ハマったボクシング愛、16年間ジム通い パンチ効いた話芸の源

[ 2018年11月13日 09:30 ]

グローブを手にボクシング愛を語る千原ジュニア(撮影・会津 智海)
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 【夢中論】“話芸のスペシャリスト”がどっぷりハマっているのが拳を通じて語り合うボクシングだ。千原ジュニア(44)は仕事の合間にジム通いを16年間続けている。オフには米ラスベガスに渡り、フロイド・メイウェザー―マニー・パッキャオ戦を“自腹観戦”するほどのマニア。体を動かし、汗をかく時間が、笑いに向き合う原動力にもなっている。

 男たちが黙々と練習に励む笑いのない空間。都内のジムでトレーニングウエアに着替え、サンドバッグの前に立つと、自然とスイッチが入る。パンチを繰り出すと、重い音が響き渡った。汗をまき散らし、動き続ける姿は芸人・千原ジュニアであることを忘れさせる。縄跳び、シャドー、ミット打ち。ルーティンをこなすと1時間半があっという間に過ぎていく。

 「ジムの男くさい空気感とか、一人で黙々とトレーニングする感じが好きなんです。最初は縄跳びも3分で限界だったのが10分も跳んでいられる。爽快感がありますね」

 初めてグローブをはめてから16年がたつ。2002年放送のボクシングを題材にしたスポーツドキュメンタリー「サイボーグ魂」に参加。最初はランニングや縄跳びなどの簡単なメニューにも全くついていけず、便所で嘔吐(おうと)を繰り返す散々な結果。それでも、「不思議と嫌ではなかった。なんか楽しかったし、なんか好きだった」。この日から、多いときは週3回のジム通いが始まり、今も続いている。

 ジュニアの原風景にあるのは、“浪速のロッキー”だ。1983年7月、たまたまブラウン管に映っていた赤井英和―ブルース・カリーの世界戦。赤井は敗れたものの、体一つでリングに立ち、世界の強者に挑む姿が小学4年だった少年には衝撃だった。少し背伸びして漫画「あしたのジョー」を読みふけったのも、その時期だ。

 さらに熱が上がったのは“浪速のジョー”辰吉丈一郎(48)の存在だった。辰吉は身長1メートル64で、1メートル80のジュニアとは16センチ差。「実際にお会いしたこともあるんですけど、腕の長さが一緒くらい。ボクシングをするために生まれてきたみたいな人。僕はお笑いのために生まれてきたというタイプじゃないので引かれましたね」

 97年にシリモンコン・ナコントンパークビューを倒し、WBC世界バンタム級王者に返り咲いた光景は今でも目に焼き付いている。世界戦で立て続けに敗れ、引退もささやかれた辰吉が7ラウンドTKO勝ち。「ずっと応援していた僕でも“無理やろ”って思っていた。ヒーローってこういう人なんやって思いましたね」

 スポーツとお笑いの違いはあるが、体一つで舞台に立ち、勝負するのは同じ。ボクサーのように生死をかけることはなくとも、ストイックに笑いに向き合っている。昭和の爆笑王・桂枝雀に魅了され、ドライブ中にも聴くほどの落語通。好きが高じて、08年には高座に上がり、古典落語の「死神」を初披露。自分なりの解釈を盛り込み、サゲも変えた“ジュニア流”に変えて演じてみせた。今年4月には独演会を開くまでになっている。

 映画「ポルノスター」(98年)など、俳優としても活躍し、公開中の映画「ごっこ」では、複雑な事情を抱えながら5歳の女の子と暮らす中年男性を好演している。「笑いは自分の中に答えがあるけど、芝居は分からない。背骨がしっかりしていないジャンルはやっぱり難しく感じますよね」。だからこそ、答えを求めて挑んでいるようにも思える。ボクシングと同じように、とことん取り組むことで芸人としての手数は確実に増えている。

 空いている時間に極力、外に出るのも常に笑いを求めているから。15年にチケット代だけで100万円以上をかけて本場の米ラスベガスで、メイウェザー―パッキャオの「世紀の一戦」を観戦。その1カ月後、東京・青山で買い物中に、パッキャオとばったり会った。「“1カ月待ったらタダで会えたんかい”って。ビックリしました」。何でもない日常が面白くなってしまうのも笑いの神様に愛されているかのようだ。

 「ボクシングの魅力?メチャクチャ奇麗な人とのエッチみたいなもん。終わってほしくないのに終わってしまうみたいな。好きやからずっと見ていたいのに、試合が早く終わってほしいと思うような。10秒で終わることもあるんですよ。何でしょうね、ホンマに。不思議ですよね」。話芸のスペシャリストはそう言ってニヤッと笑った。今も月1回ペースで生観戦も続けている。その魅力を追い求める姿が、新しい笑いにもつながっていく。

 ≪映画「ごっこ」ニート役に自分重ねて≫「ごっこ」で演じた城宮は、40歳目前ながらニートの男。ジュニアは89年に兄の千原せいじ(48)に誘われ、吉本興業の養成所に通うまで、中学2年まで引きこもっていた。それだけに「せいじに誘われなければ僕もまだ家の中だったかもしれない」と、役柄と自分を重ねながら演じた。作中では血のつながっていない5歳の女の子と共に暮らす。不器用な家族愛を描いた作品で、初めての父親役。私生活では撮影後の17年12月に第1子となる男児が誕生。「生まれる前に撮影でよかった。子供に免疫がなかったから、演じられた部分もある。今だったらキャラが変わってるかもしれない」と振り返った。

 ◆千原ジュニア(本名・千原 浩史=ちはら・こうじ)1974年(昭49)3月30日生まれ、京都府福知山市出身の44歳。89年に兄・せいじとコンビ「千原兄弟」を結成。大阪・心斎橋筋2丁目劇場で頭角を現し、大人気に。96年に東京進出。現在はNHK「超絶 凄ワザ!」、日本テレビ系「にけつッ!!」などに出演中。1メートル80、血液型O。

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