麻央さん支えで変わった…海老蔵 驚くべき精神力 悲しみの中、舞台で奮闘

[ 2017年7月7日 09:30 ]

市川海老蔵
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 市川海老蔵の精神力には恐れ入る。最愛の妻が亡くなった日も舞台に立ち、演じたのは石川五右衛門。「絶景かな、絶景かな」と高らかに声を発し、「ハッハッハ」と大きな笑い声を上げ、影響をみじんも感じさせなかった。

 麻央さんの葬儀が営まれた6月26日だけがオフ。すぐに歌舞伎座の「七月大歌舞伎」の稽古に入り、今月3日には初日を迎えている。昼の部の演目「矢の根」以外は全演目で出演。舞台に立っている時間は1日5時間を超える。激しい舞踊が中心の演目「連獅子」では、さすがに踊っている最中の下半身に若干の疲れが見え隠れしていたが、それ以外は舌を巻くほどの見事な立役ぶりだった。

 話題となっているのは、夜の部の「駄右衛門花御所異聞」で披露した父子での宙乗り。ただ、個人的には昼の部の「加賀鳶」に注目していた。盗み、ゆすり、暴力、殺しと考え得る悪行すべてをやる主人公の道玄。この男を単なる悪人ではなく、歌舞伎的な面白味のある人物として演じるのは、人生の酸いも甘いも知ったベテラン俳優でも苦労する。しかし、海老蔵は道玄を卑屈でいやらしい男として演じるだけではなく、時にはコミカルに演じて、独特の魅力を発散する男に仕上げた。

 凄みさえ感じたここ数日の演技。しかし、麻央さんと結婚した頃は、役者としての評価がすこぶる高いとは言えなかった。あまりにも物事をはっきり言い過ぎる性格は、ときに不遜(ふそん)とも受け取られた。10年11月に六本木の飲食店で暴行を受けた際も、海老蔵の態度に問題があったという報道が散見されたのは、これまでの評判が影響したとも言えた。

 そんな海老蔵を変えたのが麻央さんだった。暴行事件後の海老蔵を献身的に支えた。義父・市川団十郎さんが亡くなったときも、跡取りの妻として市川宗家を守った。深刻な病に侵されても、生の輝きをありのままにつづり続け、同じような境遇のたくさんの人に勇気を与えた。

 常に人への心遣いを忘れなかった麻央さんを思い、ブログで「人のことなんか全く考えなかった私を、人の事を思う私にしてくれた」と記した海老蔵。今は最愛の妻の生き方を心に刻んで、役者としてまい進するばかりだ。 (記者コラム)

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2017年7月7日のニュース