中村勘九郎 父がほくそ笑んでいるよう…親子3代同じ「桃太郎」で息子2人初舞台

[ 2017年1月29日 10:40 ]

中村勘九郎
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 歌舞伎俳優の中村勘九郎(35)が東京・歌舞伎座での猿若祭二月大歌舞伎(2月2〜26日)に出演する。注目は長男の波野七緒八(5)が三代目中村勘太郎、次男の哲之(3)が二代目中村長三郎を名乗って初舞台に立つ「門出二人桃太郎(かどんでふたりももたろう)」だろう。父の故中村勘三郎さんも、勘九郎と弟の中村七之助(33)も初舞台で演じた桃太郎。中村屋伝統の演目を息子たちに付きっきりで教えていると、父への思いも募った。

 「自分でやる方がどれだけ楽か…」と思わず本音が出る。目の前に迫った息子2人の初舞台。勘九郎は現在も、稽古に付きっきりの毎日だ。

 主役の桃太郎は約40分間の上演時間の大部分に出演する。何とかセリフは覚えてくれた。でも、踊りや立ち回りなどの体の動きには不安が残る。思わず「やる気あんの?」と聞いたことも。すると声をそろえて「やる気満々だよ」の返事。なにせ「ウルトラマンカブキ」という架空のヒーローを考え出して、遊びに興じるほど歌舞伎は大好き。そんな2人の歌舞伎への愛情を損ねないように気をつけながら、所作を教え込む。

 七緒八は長男らしく「自分がしっかりしないと」という意識を持って、常に弟の稽古を気にかける。ただ、きちんとできているのにどこか自信なさげ。「僕も父によく自信を持て、と言われました。でも、自信て何だろう?と思ってました。なのに七緒八にも“自信を持って”と言ってるのだからおかしなものです」。小さな体に責任感を背負い込んで頑張る長男。ちなみに片方のポケットに手を突っ込んで歩く姿は「父の勘三郎にそっくり」だそうだ。

 一方の次男・哲之は「宇宙人」と、勘九郎も苦笑い。ある日、勘九郎が稽古場に入っていくと哲之が妻の前田愛(33)と母の好江さん(57)からこっぴどく怒られていた。確かに稽古を見ているとグダグダ。でも好江さんは「たぶん、大丈夫」。何を根拠に?と思っていると「どの稽古も1発目はうまくやるの。でも反復練習は適当に流すの」とため息まじりで言った。勘九郎は哲之に思わず「大物俳優か!」と突っ込みを入れたという。

 勘九郎と弟・七之助も初舞台は桃太郎を演じた。故勘三郎さんの初舞台も桃太郎。親子3代で初舞台が同じ役というのは、江戸時代から続く歌舞伎の歴史でも極めて珍しい。ただ「僕も七之助も初舞台はほとんど覚えていない。こんなに大変な思いをしているのに、2人も覚えていないんだろなぁ」と苦笑い。「父も、おれの気持ちがわかったか?と意地悪な顔をしているんでしょう」と、冗談めかしながらも勘三郎さんに思いをはせた。

 勘三郎さんが亡くなり、丸4年が過ぎた。「息子たちの晴れの舞台には必ず父がいてくれると思っていただけに、なんで…という気持ちはあります」と声を落とす。普段の稽古でも「祖父が大切にしていた役に臨むとき、資料や父に教わった人から聞くしかない。直接教えてもらえない寂しさはあります」と、喪失感がこみ上げる時もある。

 一方で、今も胸に突き刺さっている言葉がある。「おれは同世代に刺激し合える演劇人に恵まれた。おまえや七之助にもそんな仲間ができればいいのにな」

 女優の大竹しのぶ(59)、演出家の野田秀樹氏(61)らと切磋琢磨(せっさたくま)し続けた勘三郎さん。映像作品から舞台までさまざまなフィールドで活躍した。平成中村座やコクーン歌舞伎など、伝統にとらわれない歌舞伎公演にも挑戦した。

 その遺志を継ぐように、このところの勘九郎は実に精力的だ。昨年は主演映画「真田十勇士」が公開。今年も話題作「銀魂」(7月14日公開)への出演が決定。本職でも、昨年8月の歌舞伎座公演で、笑福亭鶴瓶(65)の創作落語が原作の「廓噺山名屋浦里(さとのうわさやまなやうらさと)」を上演し、ファンを驚かせた。今年4月には「赤坂大歌舞伎」(4月6〜25日)で演劇界の新進気鋭・蓬莱竜太氏(41)とタッグを組み「夢幻恋双紙 赤目の転生」を上演する。

 役者としての幅を広げる努力は惜しまないが「帰るところは、やっぱり歌舞伎なんです」と言い切る。将来のビジョンも明確だ。「60、70歳になった時に水準の高い古典演目ができていること。それが歌舞伎役者というものと思っています」

 父の背中は今のところとてつもなく大きい。しかし、役者バカの血を受け継いだ男は、道半ばで力尽きた父がたどり着けなかった高みを目指し、着実に歩み続けている。

 ▽猿若祭二月大歌舞伎 中村勘九郎が出演するのは「猿若江戸の初櫓(はつやぐら)」「大商蛭子島(おおあきないひるがこじま)」「門出二人桃太郎」「梅ごよみ」の4演目。鬼に扮して勘太郎、長三郎と立ち回りをする「桃太郎」がハイライトとなるが、「梅ごよみ」では珍しく女形を演じる。「凄く久しぶりですが、衣装も華やかだし稽古も新鮮で楽しかった。そんな空気感がうまく出せれば」と本番を心待ちにしている。

 ◆中村 勘九郎(なかむら・かんくろう)1981年(昭56)10月31日、東京都生まれの35歳。本名波野雅行(なみの・まさゆき)。87年1月、歌舞伎座で「門出二人桃太郎」に二代目中村勘太郎として初舞台を踏む。09年2月にタレントの前田愛と結婚。12年2月の新橋演舞場二月大歌舞伎で六代目中村勘九郎を襲名。屋号は中村屋。

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