古舘伊知郎なら必ずできる新バラエティー

[ 2016年10月31日 11:10 ]

 【牧元一の弧人焦点】「フルタチさん」に期待している。11月6日にスタートするフジテレビ系のバラエティー番組。日曜の夜7時から約2時間、司会の古舘伊知郎がゲストらを相手にたっぷりとおしゃべりをする。かつての報道番組では封印されていた本来のしゃべり屋としての魅力が全開になるはずだ。

 私は40歳代半ばから既存のバラエティー番組についてゆけなくなっていた。番組自体はきっと子供の頃、若い頃に見ていたものより進化しているのだろうが、どうにも心から楽しめない。さまざまな番組でのタレントたちの一見過激な振る舞いも、むしろ予定調和に思えてならない。仕事柄、バラエティーも見るようにはしているが、自分の好みでチャンネルを合わせるのは、ほぼニュースとドキュメンタリー、スポーツだけになってしまった。けれど、古舘伊知郎なら、私をもう一度バラエティーに引き戻してくれるのではないか…。

 10月26日、「フルタチさん」の初回収録を取材した。東京・台場のフジテレビには多くのメディア関係者が集まっていたが、スタジオ入りした古館はさっそく「この番組の視聴者より人数が多いんじゃないか!?」とジョークを飛ばした。最初のコーナーは「引っかかること」というテーマに沿ってのトークで、まずは「高いギャラの子役と安いギャラの子役の演技の差に引っかかる」という話だった。ゲストらとのトークが始まって間もなく、子役たちの演技の差を検証するVTRが流れたが、これが長くてなかなか終わらない。不満を抱きながら見ていると、古館はVTRが終わった途端、ゲストらに向かって「VTRが長すぎませんか!?こういうダメ出しも収録中にやっていきたい」と言い放った。その後、いくつかのコーナーが続いたが、やはり総体的にVTRが多い印象を受けた。内容も、既存のバラエティーから大きく逸脱するものはなかった。

 古館自身も満足していない様子だった。3時間に及んだ収録の後、メディアに囲まれ「無事に収録が終わりましたが…?」と声をかけられると「全く無事じゃない。収録しながらダメ出しをし、反省会をしていました」と渋い表情を見せた。番組の中で古館の好物であるジャガイモの珍しい品種をスタジオに取り寄せて試食するコーナーがあったが「残念だけれど面白くない。ああいうコーナーはパロディーとしてやるならいいけれど、ただ普通にやっても他の番組と区別がつかない」と指摘した。全くその通りだ。さらに古館の反省は続き「もっとニュース的なコーナーがあってもいい。例えば、ボブ・ディランを不遜だと言うけれど、それがボブ・ディランじゃないですか!?連絡が取れないと言うのならコンサート会場に行って出待ちすればいい。そういう話もしたい。やりたいのは、ちゃんとしたトークショーなんです」と語った。まさにその通りだ。古館がもっと熱く、もっと深く、もっと長く話さなければ新しいバラエティーにはならない。この番組を始める意味もない。しかし、いずれにしても初回の収録が終わったばかりだ。スタジオに集まったメディア関係者に向かって熱心に本音を語り続ける姿を見ていると明るい光を感じた。

 この番組の最後には、ゲストらが退出し、少し暗くなったスタジオで古館が1人で語るコーナーがある。そこで古館が、台本に書かれていない、自分の心の奥底からの言葉を、よどみなく一気にしゃべり切るのを耳にした時、その凄まじさに鳥肌が立った。この人は、しゃべることにおいて唯一無二の存在なのだ。

 だから、私は信じている。古舘伊知郎なら新しいバラエティー番組が必ずできる、と。(専門委員)

 ◆牧 元一(まき・もとかず)編集局文化社会部。放送担当、AKB担当。プロレスと格闘技のファンで、アントニオ猪木信者。ビートルズで音楽に目覚め、オフコースでアコースティックギターにはまった。太宰治、村上春樹からの影響が強い。

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