松田龍平 10代デビューからたどり着いた「シンプルになること」

[ 2016年10月27日 15:50 ]

映画「ぼくのおじさん」で、主人公の“おじさん”を演じる松田龍平
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 作家・北杜夫氏による児童文学を原作にした映画「ぼくのおじさん」で、主人公の“おじさん”を演じた俳優の松田龍平。大島渚監督の映画「御法度」(99)で俳優デビューしたのが15歳の頃。それから「青い春」(01)「悪夢探偵」(06)「まほろ駅前多田便利軒」(11)など代表作を次々と更新し、「舟を編む」(13)では日本アカデミー賞で主演男優賞を受賞した。現在33歳、ひょうひょうとした“おじさん”を演じることのできる年齢とふり幅を得た。それでも「撮影初日はいまだに緊張する」と18年経った現在も俳優業に対する慣れはない。しかしこれまでの数々の経験は、松田に一つの考えをもたらした。

 10代でのデビューを経て、活躍の場が本格的に広がった20代。それと同時にプレッシャーものしかかってきた。「自分がそれまで正しいと思ってやってきた方法がもしかしたら違うのかもしれないと感じてしまったり、ゴチャゴチャ余計なことを考える中で“あれもこれも”と欲張ってしまうことがあった」と振り返るが、そこからたどり着いた答えは「シンプルになる」ということだった。

 不要なものをそぎ落とすことで、自分の中での軸と呼べるものが浮かび上がってくる。松田の場合は「面白いのか面白くないのか」の選択肢がそれ。「10代だからこうあるべき、20代だからこうあるべきという凝り固まった考え方も自分には必要ない。必要なのは、面白いのかつまらないのかという判断基準だけ」。目標が定まった人は強く、ブレることはない。作品の規模に関係なく、面白いと感じれば挑戦する。それが結果的に役者としての幅を広げることになった。

 「ぼくのおじさん」で演じた“おじさん”は、いい歳をして兄の家で居候中。大学で哲学を教えているといいつつも、万年床で漫画ばかりを読んでいるダメな人。ところがある目標を見つけた途端、ハワイ行きの無謀な計画をなりふり構わず実行していく。「かなり変わり者だけれど、こういう人がいるからこそ世の中は面白い。このおじさんを盾に自分を正当化しているみたいだけれど、自分自身、面白いと思ったものを選択していく人間でありたい」と自らを重ねる。

 軸があれば何をするべきかおのずと見えてくるし、それが自信としても現れ出てくる。俳優として18年経つが「慣れていないし、撮影初日はいまだに緊張する」というも「自分の選択がよかったのかどうかの結果は、映画が完成して観客に届くまでわからない。ただ自分が信念を持って撮影現場で役としてそこに立っていれば、一緒に作品を作る人たちも観客の人たちもその思いを受け取ってくれるはず」と言い切る。

 デビュー作「御法度」との出会いは人生の転機である一方で、松田は「あの時の『楽しい』は、全く知らない世界に対する興味と好奇心からきたもの。その『楽しい』という感覚と今の自分が持っている『楽しい』の感覚は違ってきた」と表現者としての成長を実感している。

 「ぼくのおじさん」は、11月3日の全国公開を前に一足早く「第9回したまちコメディ映画祭in台東」でプレミア上映された。「控室まで客席の笑い声が聞こえてきた時は『おぉ!』と思いました。もちろん上映された舞台が“コメディ映画祭”ということで、お客さんも笑いに行こうという意識があったと思う。それにしても最初から最後まであそこまで笑ってもらえるとは思わず、本当に嬉しかった」と照れ笑い。新境地に手応え十分の松田は、これからも面白さを追求し、新しい地平を開いていく。(石井隼人)

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2016年10月27日のニュース