敗者だから面白い真田丸

[ 2016年10月23日 11:05 ]

NHK大河ドラマ「真田丸」で主演を務める堺雅人
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 【牧元一の弧人焦点】「真田丸」が面白い。いまさら何を、と思われるだろうが、仕事ではなく個人的に毎週欠かさずNHK大河ドラマを見るのは初めてなのだ。脚本の三谷幸喜氏の作品がもともと好きだということもある。けれど、真田信繁(幸村)という人物に、何とも言いようのない魅力を感じていることが大きい。

 幸村が歴史の表舞台に登場するのは晩年のほんのわずかな期間だ。年齢的に最盛期だったはずの14年間を山里での幽閉生活に費やしている。人生最期の大坂冬の陣、夏の陣で「日本一の兵(ひのもといちのつわもの)」と称されるようになったが、戦いの結末は、紛れもなく敗北だ。大河によく登場する歴史上の人物、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康らに比べれば極めて地味である。

 三谷氏は放送開始前、大河の主人公にこの人物を選んだ理由をこのように語っていた。「私は勝者より敗者に魅力を感じる。世の中のほとんどの人は何かを成し遂げられずに人生を終える。私は敗者が好きなんです」。この話を聞いた時は、まあそうかもしれない、という程度の感想しか持たなかったが、実際に放送が始まり、物語が進むにつれて幸村に対するシンパシーが徐々に増していった。幸村はずっと歴史の脇役で過ごし、最晩年にようやく決戦の時を迎えるが、そこで敗れ、死んでゆく…。とても切ないと思う半面、妙に納得できる。きっと、最後に敗れるからこそ、それを知ってドラマを見ているからこそ、胸を揺さぶられるのだ。敗者だから好ましい。三谷氏の言う通りだ。

 あの時、三谷氏はこうも話していた。「敗者が好きだが、滅びの美学は好きじゃない。だから、見ている人が“もしかしたら大坂方が勝つんじゃないか!?”と思ってしまうように、最後まで希望に満ちたドラマを描きたい」。幸村は冬の陣では大坂城最南端に築いたとりで「真田丸」に立てこもり、徳川の3万人の大軍を5000人で追い払った。夏の陣では家康の陣地のすぐ近くにまで突撃して家康を恐怖で震え上がらせた。確かに、冬の陣の後、徳川と豊臣の和睦によって大坂城の堀が埋められ真田丸が取り壊されていなければ、幸村が勝者になっていた可能性はゼロではない。幸村自身にもある程度の勝算はあったはずだ。

 最近は幸村を演じる堺雅人にもはまっている。実はこの大河を見る前までは堺のことが特に好きではなかった。「倍返しだ!」の名言で社会現象にもなったドラマ「半沢直樹」では過剰な演技が目立つ役者というイメージが強かった。しかし、この大河では過剰なものを一切感じない。たぶん演技の本質は「半沢直樹」の時と変わっていないのだろうが、晩年まで歴史の脇役であり続ける、ある意味で地味な幸村を演じるにはそれくらいがちょうどいい。このキャスティングは大正解だった。

 それにしても…。考えてみれば、これほどまでに後世の凡人、つまり私にシンパシーを抱かせる幸村とは、果たして本当に敗者なのだろうか!?(専門委員)

 ◆牧 元一(まき・もとかず)編集局文化社会部。放送担当、AKB担当。プロレスと格闘技のファンで、アントニオ猪木信者。ビートルズで音楽に目覚め、オフコースでアコースティックギターにはまった。太宰治、村上春樹からの影響が強い。

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