石田ゆり子 映画「悼む人」で壮絶ヒロイン「これで引退してもいい」

[ 2015年2月3日 12:30 ]

笑顔でインタビューに答える石田ゆり子

 ようやく穏やかな表情が戻ってきた。14日公開の映画「悼む人」でヒロイン役に身も心もささげた石田ゆり子(45)だ。原作に心揺さぶられ、自ら手を挙げて得た役。「これで引退してもいいくらいの気持ちで…」の言葉に“やりきった感”がのぞく。気がつけば不惑もとうに過ぎた。恋のパッションの方はどうなってるんだろ?

 初めて取材してから、かれこれ20年ほどになる。清楚(せいそ)、かれん、しとやか…。そのとき抱いた印象が、いささかもさび付いていないのはやはり驚きだ。

 周りにも“隠れファン”が実に多い。総じての「石田評」もそういったところに落ち着くが、これに「はかなげ」「控えめ」といった形容詞を加える人間もいる。

 第一印象は、それが強ければ強いほど、なかなか頭から消えないものだが、今作の石田はそんなしおらしいイメージもかなぐり捨てて役に入り込んだ。天童荒太氏(54)の直木賞受賞作を堤幸彦監督(59)が丹精込めて映像化した「悼む人」。ヒロイン奈義倖世(なぎ・ゆきよ)と同化した。

 「読んだ時に、感想とともに“映像化されることがあったら、何らかの形で参加できないでしょうか?”と天童さんにお手紙を書いたんです」

 2000年に放送された日本テレビ系ドラマ「永遠の仔」に出演して以来、天童氏とは折に付け手紙のやりとりを続ける仲。それでも、他の仕事も含めて、自ら手を挙げたのは初めてのことで、「想像もつかない世界観の中に身を投じたかったんです」と、抑えきれなかった思いを吐露した。

 亡くなった人の「愛」の記憶を胸に刻むため旅を続ける主人公の静人。石田演じた倖世は夫を殺した罪にさいなまれ、その亡霊に取りつかれながら静人と一緒に旅を続け、やがて生への輝きを取り戻していく。

 最初の結婚では夫からDV(家庭内暴力)を受け、再婚相手からは「殺してくれ」と頼まれる難役。「彼女の背負っている苦しみとか悲しみは想像してもしきれないものなので、考えるのを途中でやめました。もちろん、考えて考えて想像し尽くしての上ですが…。これは考えるよりも現場で感じるしかないと、そう思ったのです。1カ月半から2カ月の撮影は“彼女に自分をあげちゃう”というくらいの気持ちで臨みました」

 その気迫がスクリーンからにじみ出た。「自分で手を挙げたので、恥ずかしいものにしてはいけないというのはもちろんありましたし、これだけの難役をやらせてもらってるんだから、“これで引退してもいい”と…」

 試写会を見た人にも思いが通じ「今までにない褒められ方をするんです。それが凄くうれしくって。身を削るようにして演じるっていうことの答えかなって、そう思います」と、表情を緩めた。

 愛する妻の体の中で生きるために「殺してくれ」と迫る夫、さらに静人との官能的なラブシーンも評判。この場面に絡めて「パッション(情熱)」という言葉を使ったところ、それを静人を演じた高良健吾(27)が引用して、いまや「パッション」という言葉が独り歩きしていると笑う。

 高良を「素晴らしい俳優さん」と称える。「ふたりで黙々と朝日に向かって歩いたり、夜道をただ歩くというシーンをずいぶん撮りましたけれど、そばにいて、心が落ち着く青年なんですよね。とても清らかで。一緒にいて、俳優って素敵な仕事だなとあらためて思いました」

 精神的にも肉体的にも過激なシーンばかりで「楽なシーンはひとつもなかった」と振り返ったが、「まだ客観的には見られませんが、この映画を見ると、生きてることって素晴らしい、そういう気持ちになると思うんです。人は必ず死んでしまうから、生きている間は必死に生きようって。天童先生も“死を描くから生が輝くんです”とおっしゃっています。宝物になった作品です」と声のトーンを上げた。

 45歳には見えない若々しさ。プライベートで「俺を殺してくれという人はいません?」と水を向けると、笑いながら「いないです」とすぐに答えが返ってきた。「うまく言えないんですけど、そういうことを考えなくなりました。諦めるというのとも違いますが、恋愛というものに対しての考え方が変わってきた感じがします。まず自分の人生をちゃんと自分らしく生きないと、本当にふさわしい相手には出会えないんじゃないかと」

 自立心が昔から強かったという。「誰かに幸せにしてもらおうなんてダメ、無理。子供の頃に“お嫁さんになるのが夢”と言っている友達もいましたが、私の目標はそこにはなかった。自分にしかできないことをやる人になりたかったんです。そういう気持ちが割と強い。そうしたら、こんなになっちゃって…」とまた笑顔。何とももったいない話だが、目下パッションは仕事の方に向いているようだ。

 ▽物語 「誰に愛され、愛したか、どんなことをして人に感謝されていたか」を心に刻むため巡礼のように旅を続ける坂築静人(高良)とその家族、そして旅の途中で出会う人々を通して「死と再生」を描く。大竹しのぶ、椎名桔平、井浦新、貫地谷しほりら共演陣も豪華。東映配給。

 ◆石田 ゆり子(いしだ・ゆりこ)1969年(昭44)10月3日生まれの45歳。東京都出身。88年NHKドラマ「海の群星」でデビュー。映画の主な代表作に「北の零年」(05年)「死にゆく妻との旅路」(11年)「もののけ姫」(声、97年)など。石田ひかりは妹。

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