[ 2010年2月13日 06:00 ]

ベルリン・フィルの本拠地フィルハーモニー。ベルリン市の中心、ポツダム広場に隣接しサーカスのテントを連想させる特異な外観から「カラヤン・サーカス」との異名も

 コンシェルジェによると「現在もベルリン・フィルの楽員に一定の影響力のあるクスマウルの後押しがあることに加えて、現地の音楽ジャーナリストからの情報等によると今のところ他の楽員からも好意的に受け止められているようです。樫本の前向きで積極的な演奏スタイルは、ベルリン・フィルのそれと合致している上、音楽に対するひたむきな姿勢も好感を持たれる要因となっている。カギとなるのは首席指揮者兼芸術監督であるサイモン・ラトルがどう考えるか。楽員全員による投票とはいえ、シェフであるラトルの意向は 大きな影響力を持っている。ジルヴェスターの映像を見る限り、樫本は必死でラトルの意思をオケ全体に伝えようと努力している姿勢が窺われ、ラトルとのコンタクトに特に問題はない様子。あとは、腕利き揃いの楽員たちを引っ張っていくリーダーシップが問われるところ。試用とはいえ1度コンマスの席に座らせた人間の採用を取り消した例は、ほとんど見たことがないので正式就任する可能性は高い」とのこと。ちなみにベルリン・フィルのホームページを開いてみると樫本は3人の第1コンサートマスターのひとりとして名前を連ねており、そこには「試用」の但し書き等は見当たりませんでした。

 さて、バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータについて触れておきたいと思います。彼が子どもの頃から弾いていたと言っているように、ヴァイオリニストにとってすべての基礎的要素を包含した作品ということができるでしょう。1720年バッハが35歳の時に作ったこの作品群は、音楽史上において重要な独奏曲として位置付けられています。3曲のソナタと3曲のパルティータ、全6曲で構成されていますが、中でも、パルティータ第2番ニ短調の終楽章の「シャコンヌ」は最も有名な作品で、その後の多くの作曲家らの手によりオーケストラ・バージョンなどに編曲されたりもしています。ちなみにパルティータとは、18世紀のドイツで確立された楽曲のスタイルで一定のモティーフを展開させていくような構成を持つ組曲のことです。
 “無伴奏”とは、文字通りチェンバロやオーケストラなどの伴奏を伴わない独奏楽器のみによる楽曲で、歌で言えばア・カペラです。その楽器の和声的な限界ギリギリにまで迫る高度なテクニックも要求されます。例えば主旋律を支える和声面をダブル・ストップあるいはトリプル・ストップと呼ばれる複数の弦の音を鳴らす技法で表現するのです。こうしたテクニック面での難しさもさることながら、より高いハードルは高い精神性が求められることでしょう。ヴァイオリン1本で、深奥なるバッハの精神世界を表現しなくてはならない。まさにヴァイオリニストにとって、究極の楽曲なのです。

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2010年2月13日のニュース