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入江聖奈“トノサマガエル”天下統一 鳥取県の金メダル1号 女子ボクシング初の快挙に「夢みたい」

[ 2021年8月4日 05:30 ]

東京五輪第12日 ボクシング女子フェザー級決勝   入江聖奈 判定 ネスティー・ペテシオ ( 2021年8月3日    両国国技館 )

女子フェザー級決勝、金メダルを獲得しジャンプして喜ぶ入江聖奈(撮影・小海途 良幹)
Photo By スポニチ

 女子フェザー級決勝で初出場の入江聖奈(20=日体大)が19年世界選手権優勝のネスティー・ペテシオ(29=フィリピン)に5―0で判定勝ちし、12年ロンドン大会から採用された女子では初めて金メダルを獲得した。ボクシングでの金メダルは史上3人目で、鳥取県の金メダル1号となった。また、男子フライ級準々決勝では田中亮明(27=岐阜・中京高教)が勝って5日の準決勝に進出し、銅メダル以上が確定。これで今大会のボクシング日本勢のメダルは3個でロンドン大会を上回り過去最多となった。 

 鳥取県産の天然娘は大好きなカエルのようにリング上でぴょんぴょん跳びはねた。初出場の夢舞台で日本女子初、鳥取県初の偉業を達成。死闘を演じたペテシオと抱き合って健闘を称え合うと、もう涙は止まらなかった。

 「何も覚えてなくて、気がついたら着替えていた。何回もほっぺをつねってみたんですけど、夢みたいで…今も夢の中にいるような気がします」

 表彰台の上でも戸惑ったような、はにかんだ笑みを浮かべ、再び涙。「君が代が流れた時に世界一になったんだなという実感があってウルウルしました」と振り返った。

 無我夢中だった。いつものように“聖奈スマイル”で入場したものの、「内心は緊張でほっぺを引きつらせながらの笑顔」。日本連盟の伊田武志女子強化委員長から伝授された作戦は「詰め将棋をするトノサマガエル」で、カウンターが得意なパワフルなファイターに対し、丁寧に理詰めで攻める意図だったが、入江は「殿様になるぞ、という強気の表れだと思う」と、違う解釈をしていた。

 それでも勝利を引き寄せたのは、その強気の攻めだった。序盤から積極的に攻め、得意の左ジャブをヒットさせて1回を先取。2回はペテシオの反撃を許したが、最後は気持ちで打ち勝ち「今日だけは殿様ガエルになれた」と笑った。

 漫画「がんばれ元気」に影響され、小学2年生でボクシングを始めた。中1だった13年に開催が決定すると東京五輪での金メダルが夢になった。高1の高校総体では2学年上の並木月海に敗れて「人生初の負け」を経験。きょう4日に女子フライ級の準決勝に臨む並木との一戦で本気で夢を追うことの重さを知った。自称「逆上がりもできない運動音痴」は、人の何倍も地道に練習を重ね、基本のワンツーを攻撃の軸にしたスタイルで五輪切符をつかみ、「この一年はボクシングにささげた」。そして世界の壁を打ち破って頂点に立った。

 感動の余韻も残る表彰式後の記者会見。入江は次の目標として「(今秋の)世界選手権で金メダルを獲ること」を掲げる一方で「自分の中では有終の美で終わりたいっていうのが強くありまして、やっぱりボクシングは大学限りでやめるつもり」と、競技を続けない意向を明かして驚かせた。「4年生からは就活もしないといけない。カエル関連で就職できたらいいんですけど、ネットで調べても、ちょっと就職先が出てこない。ゲームが好きなのでゲーム会社に就職したい」。その拳で歴史の扉を開き、ユニークなキャラでも注目を集めた入江。最後まで“聖奈ワールド”は全開だった。

 ▼井上尚弥(WBA&IBF世界バンタム級統一王者)入江聖奈選手、金メダル獲得おめでとうございます!僕もロンドン五輪を目指していた身として、アマチュアボクシングのレベルの高さと厳しさを肌で感じました。夢舞台での金メダル、日本女子選手初の快挙に心からお祝い申し上げます。

 【入江 聖奈(いりえ・せな)】☆生まれとサイズ 2000年(平12)10月9日生まれ、鳥取県米子市出身の20歳。身長1メートル64の右ボクサーファイター。名前はF1ドライバーのアイルトン・セナから。

 ☆競技歴 漫画「がんばれ元気」を読み、小2から「シュガーナックルジム」でボクシングを始める。中学では陸上800メートルでも活躍。米子西高ではボクシングに専念。得意なパンチは左ジャブ、右ストレート。

 ☆実績 18年全日本選手権優勝。18年世界ユース選手権銅メダル。19年世界選手権8強。中学までは無敗も高1の高校総体で並木月海に初黒星。

 ☆理想のボクサー 往年の選手の動画を見て参考にしているが、「その日の気分によって目指すボクサーは違う」。日本人では「独特な感じで面白くて清水聡選手が好き」。

 ▽カエル好き ベルツノガエルに「ジャイ子」と名前を付けて飼育中。自身のインスタグラムに投稿した写真の6割はカエルが占める。以前飼育していたカエルの顔をアップにプリントしたTシャツを作ったことも。

 ≪金なし県 沖縄だけに/6日登場喜友名に注目≫入江が鳥取県出身選手初の五輪金メダルを獲得。これまでの鳥取勢のメダリストは92年バルセロナ五輪男子マラソン銀の森下広一、12年ロンドン五輪アーチェリー女子団体銅の川中香緒里の2人だけだった。これで夏季・冬季を通じて五輪の金メダルを獲得していない都道府県は沖縄だけ(岩手県の金は冬季のみ)。ただし6日に登場する空手男子形の喜友名諒(劉衛流龍鳳会)は上位進出が有力視され、金メダルの“空白県”がなくなる可能性は高い。

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2021年8月4日のニュース