「市船ソウル」が奇跡を起こした日…夏の甲子園には“魔曲”と“グッドルーザー”がよく似合う

[ 2025年7月12日 17:09 ]

2022年夏の甲子園、9回、サヨナラの死球を受けた市船橋の代打・黒川。当ててしまった興南・安座間は膝から崩れ落ちながらも帽子を脱いでいた
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 【君島圭介のスポーツと人間】

奇跡を起こす「市船ソウル」演奏動画はこちら

 2022年夏の甲子園で忘れられない試合がある。

 1回戦・市立船橋(千葉)―興南(沖縄)。15年ぶり出場の市立船橋は3回を終わって0―5と大量リードを許していた。

 誰もが一方的展開を予想したが、市立船橋は違った。4回に2点、5回に1点を返すと、8回にはソロ本塁打とタイムリーでついに5―5と追いついた。

 こうなると観客は「大逆転勝利」という奇跡を期待する。

 9回裏、市立船橋の攻撃。1死満塁。スタンドで鳴り続けたのは「市船ソウル」だった。

 2017年に20歳でこの世を去った市立船橋吹奏楽部出身の浅野大義さんが作曲したチャンステーマ。甲子園出場は奇しくも浅野さんと市立船橋吹奏楽部をモデルとした映画「20歳のソウル」の封切りと同じ年だった。

 その曲をこの甲子園で初めて聴いた人も多かった。

 甲子園球場全体は異様なムードに包まれる中、2ストライクと追い込まれた市立船橋の代打・黒川裕梧内野手(3年)は背中にサヨナラの押し出し死球を受けた。

 5点差を跳ね返した奇跡の逆転勝利を思い返せば「市船ソウル」が頭の中でリフレインする。

 あのシーン。忘れてはいけないことがもう一つある。9回途中から救援登板して死球を与えた安座間竜玖外野手(3年)は、マウンドに膝から崩れ落ちる寸前になんと帽子を取っているのだ。

 頂点を目指してきた努力が潰(つい)えた瞬間、頭が真っ白になり、全身が脱力しながらも謝罪の意思を示すため帽子を取る力だけ残していた。

 安座間くんの素晴らしい心のあり方に対し、奇跡を起こした市立船橋ナインと同じくらいの敬意を込め、称賛の拍手を送りたいと思った。

 甲子園の名試合には必ず勝者の笑顔と耳に残る“魔曲”と称えるべきグッドルーザーがいる。

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