【内田雅也の追球】幸運をつかむ戦い方 自滅をしないからこそ阪神は強いのである

[ 2023年9月14日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神4―0巨人 ( 2023年9月13日    甲子園 )

<神・巨>6回無死一塁で送りバントを決める木浪(撮影・成瀬 徹)
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 会見を終え、甲子園球場内の階段を上りながら阪神監督・岡田彰布は「8回終了、1―5」と広島の途中経過を聞くと「そうか。今から、ええとこ見よ」と子どものように笑った。監督室のテレビで広島の敗戦、マジックナンバーが1になる瞬間を見届けた。

 いよいよ来た。歓喜のアレはもう手を伸ばせば届く。きょう14日、決めようではないか。超満員の本拠地・甲子園。相手は巨人。舞台は整った。

 10連勝を決めたこの夜もしっかりとした試合をして、勝ちきった。

 勝負事ではツキや運、流れが大切である。野球の先人たちが積み重ねた経験から言える教訓は併殺や走塁死、凡失、無駄な四死球などがあれば、相手に流れを渡してしまう。逆に言えば、阪神はそんな自滅をしないから強いのである。

 この夜「勢いで勝っているんじゃない」と言った岡田に先の点を問いかけると「そう。負け方が大事なんよ」と話した。「勝敗はともかく変な試合をしていないからよ」

 3回裏に出た佐藤輝明の満塁弾は強烈だった。この4点を零封リレーで守りきった。

 守備面では幸運が相次いだ。2回表1死一、二塁は投手ライナーを青柳晃洋がはじくと直接二塁手・中野拓夢の前に飛び、捕って二塁を踏んで併殺。5回表無死一塁では一塁手・大山悠輔がゴロをはじいても二塁手・中野が処理できた。

 ただ、運で片づけるのはどうか。青柳は投球後の体勢が良く「5人目の内野手」として、あのライナーに反応してグラブを出せたのだ。低めを突いてゴロを打たせたため、ベースについていた大山もミットに触れることができたのだ。「幸運はよく準備された実験室を好む」とルイ・パスツールも語っている。

 「マイナス思考」と認める岡田は慎重だ。4点リードの6回裏無死一塁は木浪聖也にバントで送らせた。8回裏1死一塁でも坂本誠志郎にバントさせている(ファウル)。追加点の1点が狙いだが、強攻しての併殺を回避した意味もあろう。

 この夜奪った3個を含め、リーグ最多の併殺数は116に上る。それだけ相手から流れを奪ったことになる。逆に、阪神打線の併殺打はリーグ最少の73しかない。与四死球も1―4でこの夜も阪神が少なかった。

 猛暑も和らぎ、夜の甲子園には涼やかな風が吹いた。実りの秋はもうそこにある。=敬称略=(編集委員)

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