近江・山田と高松商・浅野の勝負は伝説になる 一投一打にスタンドが揺れた

[ 2022年8月19日 04:06 ]

第104回全国高校野球選手権第12日・準々決勝   近江7―6高松商 ( 2022年8月18日    甲子園 )

<近江・高松商>試合終了後、高松商・浅野(左)に声をかける近江・山田(撮影・藤山 由理)
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 【秋村誠人の聖地誠論】見る者全てを引き込んでいく。一投一打に揺れるスタンド。雨雲が去った甲子園には、夏の陽光が降り注いでいた。高松商・浅野と近江・山田。きっと何年後か、伝説の名勝負として語り継がれていくのだろう。

 マウンドとバッターボックス。2人を見守る3万1000人の興奮の度合いが、はっきり伝わってくる。初回。浅野が左翼線二塁打したその裏、4番打者でもある山田がお返しとばかりに先制打を放つ。それが激闘のプロローグだった。「きっと凄い対戦になる」。予感が現実となった。

 山田は真っ向勝負。それに浅野がフルスイングで応える。もう一瞬たりとも目が離せない。そして3回、凄い衝撃音とともに打球がバックスクリーンへ伸びた。右手を突き上げてダイヤモンドを一周する浅野と、口を真一文字に結び打球の行方を見つめる山田。2人のコントラストに思わず心を揺さぶられた。

 もつれる試合。もうどちらに転ぶか分からなくなった7回表だった。驚きと興奮。スコアボードに浮かぶ「故意四球」の文字に、球場全体がどよめいた。場面は1死一、二塁。2点リードしている近江が、打席に浅野を迎えて、満塁とピンチが広がるのを覚悟で歩かせたのだ。2回戦(対佐久長聖)の同様の場面であった「故意四球」は伝達ミスによる間違いだったが、今度は本当だ。その2回戦の当連載で、水島新司氏の人気漫画「ドカベン」で山田太郎が満塁で敬遠されたシーンを思い出したと書いた。そんな漫画のようなことが現実に起こる。これもまた伝説となるはずだ。

 ただ、「ドカベン」とは違って歩かせたのが山田で、その心中はどうだったか。浅野との勝負回避。揺れる心が、その後の投球に表れたように思える。満塁から連打と押し出し四球で逆転を許した。再逆転して5度目の対戦となる直前、山田は右太腿裏がつってマウンドを降りた。浅野の、高松商打線の重圧に耐え続けた代償だろう。

 ゲームセット。グラウンドを出るとき、2人は短く言葉を交わした。拍手は鳴りやまない。願わくはもう一打席、2人の勝負を見たかった。(専門委員)

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2022年8月19日のニュース