【内田雅也の追球】インハイの打ち方 佐藤輝に指導を行った阪神・井上ヘッドの情熱と根気

[ 2021年9月17日 08:00 ]

1999年6月、阪神戦でメイから先制2ランを放つ中日時代の井上ヘッドコーチ
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 いま阪神ヘッドコーチの井上一樹からインハイの打ち方を教わったことがある。

 少年野球のコーチをしていた2017年、阪神―中日戦の試合前だった。甲子園球場関係者喫煙室で同僚の記者と雑談をしていた。子どもから「インコース高めはどうやったら打てますか?」と問われて困り「来週までコーチの宿題にします」と答えたと話した。

 当時評論家で部屋にいた井上が聞いていて「インコース高めですか」と真剣に答えを考え、子どもにも分かるよう、身ぶり手ぶりで説明してくれた。文章では伝えづらいのだが、つまり、テークバックの時間を短く、動きを小さくすると話していた。腕をたたんで振る必要があるインハイは対処する時間が最も少ないからである。

 井上は中日での現役時代もそうやって内角球を打ち返していたのだろう。リーグ優勝した1999年、阪神戦で内角速球を甲子園の右翼席に運んだ一撃を覚えている。また、内角ではないが、2006年8月30日の甲子園では9回表、代打で藤川球児の高め速球を中越えに同点本塁打を放っている。内角にも速球にも強さを見せていた。

 そんな井上が16日、2軍にいる佐藤輝明をみるため、甲子園を訪れた。前夜は神宮でのナイターで、恐らく朝一番の新幹線で駆けつけたのだろう。ウエスタンリーグ・ソフトバンク戦の試合前練習で直接指導を行った。

 打撃不振で2軍落ちした佐藤輝は特にインハイ速球への対処が課題とされている。会員制の共同通信NPB統計・分析サイト『翼』によると、内角ベルトから高め(ボール球を含む)の打撃成績は71打数16安打(打率・225)、2本塁打。これは結果球だけでインハイの空振りやファウルが目立つ。

 優勝を奪い取るには佐藤輝の力は欠かせない。悩める怪物ルーキーとともに考え、井上も「問い」を共有していると言える。あの時、一緒にインハイの打ち方を考えてくれたような真摯(しんし)な姿勢である。

 井上の指導を受けた後の2軍戦で佐藤輝は2安打を放った。井上の指導内容について「いつも言っていただいていますが、自分の懐をしっかり広く持てとあらためて今日も言っていただきました」と話した。

 「自分の懐」である。やはり、内角球に関係しているように聞こえる。ヒッティングゾーンの確立、ストライク・ボールの見極めもあるだろう。

 「いつも言っていただいていますが」という佐藤輝の言葉にも思うところがある。

 井上は一昨年7月、親戚関係で親交のある大相撲の錣山親方(元関脇・寺尾)と再会し<私の今後の人生で必ず役に立つ>と若者の指導法で一番大切なことを尋ねている。答えは「諦めないこと」だった。自伝『嗚呼、野球人生紙一重』に記している。<若者を指導していると、成長しない、結果が出ない、さらには、こちらの考えが伝わらないなど、うまくいく方が少ないものです>としたうえで、<それでも親方は「諦めない」。この言葉に私は大変感銘を受けました>。同年オフ、阪神コーチに就任したのだった。

 佐藤輝はこうも話したそうだ。「本当にいつも気にかけてもらっているので、早く返せるように頑張っていきたい」。井上の根気と情熱は伝わっている。いつか、実を結ぶと信じている。 =敬称略= (編集委員)

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