【内田雅也の追球】4番で負けた阪神 好機で3度とも凡退の大山 「自分との闘い」と「七転八起」

[ 2021年8月28日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神4ー6広島 ( 2021年8月27日    マツダ )

<広・神>最後の打者となり肩を落とす阪神・大山(撮影・大森 寛明)
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 一打同点、一発逆転の9回表2死二、三塁で阪神・大山悠輔はボテボテの三ゴロに倒れた。力走むなしく最後の打者となり、駆け抜けた先で両手をひざについた。顔を上げ、敗戦のベンチまで歩いて帰った。

 ずばり書く。大山で負けた試合だった。3回表1死満塁で二ゴロ併殺打。5回表は目の前でジェリー・サンズが敬遠された2死一、三塁で三ゴロに倒れた。得点圏で3打席凡退、計7人の走者を立ち往生させた。4番で負けたのだ。4番はチームの勝敗の責任を負う。

 ため息やヤジが耳に痛い。その胸の内、心の痛みは誰にもわからない。だが、想像はできる。

 「タイガースの四番は経験した人間でしかわからない」と、新井貴浩(本紙評論家)が著書『阪神の四番』(PHP新書)に書いている。阪神での現役時代、金本知憲(本紙評論家)の後を継いで4番を打った。注目度が高い阪神4番の重圧は<巨人以上>と感じた。<打てなければ、ファンからもメディアからも徹底的に叩かれる。それがずっと続けば、どんなに強い人間だって平静ではいられない。どうしてもプレッシャーに押しつぶされそうになる>。

 今の大山である。打撃不振は極まり、セ・リーグ規定打席到達者で最下位の打率は・236まで下がり、ブービーだった得点圏打率は2割を切り・198まで落ちた。

 何しろ優勝しようというチームの4番である。大山も、起用する監督・矢野燿大も正念場だ。矢野は敗戦後、「ちょっと考えます」と打順変更の可能性も明かした。ただし、それは急場をしのぐ仮の打順だ。あくまで「4番・大山」との考えは揺らいでいないはずだ。

 同感である。今のメンバー構成からすれば、大山4番が最も座りがいい。3番や5、6番がより際立つ。

 新井は阪神の4番に求める姿勢を書いている。一つは矜持(きょうじ)だ。<弱い部分、気持ちが引いたところをチームメートやファンに見せてはいけない>。

 もう一つは克己だろうか。<自分との闘い>だとしている。<どれだけ激しくバッシングされようが、自分の気持ちをコントロールし、なんとかして自分を奮い立たせてバッターボックスに向かわなくてはいけない>。

 そして<四番とはチームにとっての父親である>と理想像を強い父親だとしている。新井の父親は相当に厳しい人で劇画『巨人の星』の星一徹のようだった。<愛情に裏打ちされた厳しさ>と感じていた。

 厳しさとやさしさ。大山にはそんな心の持ち主だとみている。

 著書の副題は『七転八起』だった。大山は顔を引き締め、歯を食いしばっていた。 =敬称略= (編集委員)

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