【内田雅也の追球】6番と7番の重圧度 打線組み替え奏功の阪神 「達成者」への「マジック記念日」

[ 2021年7月9日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神6-5ヤクルト ( 2021年7月8日    神宮 )

<ヤ・神(15)>8回2死二、三塁、大山は右越え3ランを放ち、ガッツポーズ(撮影・坂田 高浩)
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 決勝3ランを放った阪神・大山悠輔は一塁を回り、右こぶしを高く掲げた。「打った後が大事」といつもは静かにダイヤモンドを回る元4番には珍しいポーズである。

 よほど苦しかったのだろう。喜びがにじみ出ていた。

 打線でブレーキとなることが多く、ネット上の書き込みにはひどい雑言が並んでいた。反骨を見た思いで感じ入る。

 文句なしのヒーローだが、打席での緊迫度合いからすれば、直前の梅野隆太郎の方が大きい。1点ビハインドの8回表2死一、三塁だった。4~7回と4イニング連続で先頭が出塁しながら無得点と重く、苦しい試合展開だった。

 梅野は2ボール―1ストライクから清水昇の抜けたフォークに食らいつき、三塁やや左を強襲、左翼線に抜ける同点打を放った。

 同点となったことで大山の重圧は随分と軽くなったことだろう。監督・矢野燿大も「流れの中でリュウ(梅野)が打ってくれたっていうのがまずあっての悠輔(大山)だと思う」と話していた。

 試合前まで(7日現在)で梅野は得点圏打率はリーグ2位(・388)で、大山は下から2番目(・203)だった。

 矢野は4日、広島に敗れた時点で6番・大山と7番・梅野の打順入れ替えを明かしていた。打順が一つ違うだけだが、重圧の度合いもまた違ってくる。本来の4番、主将として責任を重く受けとめていた大山を少しでも楽に打たせようとの思いからだろう。

 打順に関する考え方はさまざまで、近年は2番に強打者を置くケースもある。日本で長年、基本的な考えとなってきたのはV9巨人のオーダーだろう。監督・川上哲治が指南書としていたのはアル・カンパニスの『ドジャースの戦法』(ベースボール・マガジン社)だった。同書は6番打者を<3番目に力のつよい打者>と、4、5番に次ぐ位置付けにしている。3番は<もっとも確実な打者>だ。

 7番打者については<それほど確実な打者でなくてもいい>とある。<しかし、時と場合によっては(走者を)迎え入れるぐらい打てなくてはならぬ>。まさに今の大山の打順だと言える。

 もちろん、巡り合わせの問題で7番に緊迫場面が回ってくることもある。今回の打順変更は奏功していた。大山は6日に先制ソロにダメ押し打、7日も無走者で二塁打、この日も7回先頭で安打している。少しずつ、復調への階段を上ってきていたわけだ。

 この日7月8日を記念日として覚えている虎党も多いことだろう。2003年、優勝マジックを点灯させた日だった。監督・星野仙一の故郷、倉敷で広島に快勝、マジック49をつけた。

 そして星野が「夢に日付を入れることができた」と9月15日、優勝を成し遂げたのだ。

 当日夜の祝勝会で着たTシャツには「Achievers」とあった。「達成者たち」という意味だ。「Champions」(優勝者たち)と比べ「苦労して物事を成し遂げた感じが出る」と球団首脳が話していたのを思い出す。

 物事を達成するまでの道のりはむろん険しい。雨のなか苦しんだこの夜の試合のようだと言える。大山3ランに沸き返るベンチには未来の達成者たちの顔が並んでいるように見えた。 =敬称略= (編集委員)

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