大谷の今季の打撃フォーム 二刀流ならではの筋肉と手首返さぬ高い技術が融合

[ 2021年7月9日 02:30 ]

ア・リーグ   エンゼルス5―4レッドソックス ( 2021年7月7日    アナハイム )

<エンゼルス・レッドソックス>5回、右越えソロを放った大谷は日本人シーズン最多本塁打記録を更新(撮影・沢田 明徳)
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 本塁打を量産する今季のエンゼルス・大谷で特徴的なのが、独特のアッパースイングの打撃フォームだ。筑波大准教授で、動作解析の第一人者として知られる川村卓氏(51)が分析した。(取材・構成 柳内 遼平)

 大谷選手が本塁打を打つためのスイングをしているのは間違いない。頭を残す形でお尻を投手側に突き出していくような振り方。下から振り上げるような下半身の使い方になる。背中、お尻、太腿の裏側をしっかり使えないと腰砕けになる。

 普通は上から叩くことによって、バットが重力に逆らわずにスイングができる。下から振ることは(この道理と)凄く矛盾し、スイング速度が遅くなる可能性がある。大谷選手は投手をしている経験上、上半身、肩周りの柔らかさがある。捕手側にグリップを引いてから振りだし、体の「割れ」ができている。

 一番のポイントは手首を返さないところ。基本的に手首を返すとバットは水平には振れるが上がる形にはならない。これをするとボールを線ではなく点で捉える形になる。練習と体の強さがないと捉えることができない。

 日本人は前の筋肉は鍛えられるが、(背中、尻、太腿の裏側など)後ろの筋肉を鍛えることは難しい。大谷選手が投手で鍛えてきたのはそういうところ。体の後ろ側の筋肉が大事になる。

 最近は右翼方向にも良い当たりが出るようになった。以前は中堅方向への当たりが多く、右翼方向はドライブがかかった本塁打。(6月28日の)ヤンキース戦の最初の本塁打から、内角の球も右翼方向にうまく打てるようになった。手首は返さない。これは「肘を抜く」という打ち方で難しい。普通は右翼方向には切れていく打球になるが、スライスをかけていくようなイメージで、昔でいったら松中(信彦)選手が打っていたような本塁打。一つ上の段階にきた。

 今はパワー全盛。打ち方はあまり良くないがパワーによって克服する選手がメジャーには多い。大谷選手には技術がある。運ぶ技術を持っており、そこにパワーが加わって、他の選手とは違う。正直、メジャーに匹敵したというレベルではなく既に一個上にいる。

 ≪松井との共通点は頭を動かさない振り方≫松井選手は最初、打球がゴロになり苦しんだ。それを右手一本ですくい上げる形にしてホームランがどんどん増えた。

 上の手(左手)を使おうとすると、こねてしまう。バットの軌道が上から下にいってしまう。わざと後ろの手を使わないようにして、最後に前の手ではね上げるようにして、ボールの下にバットを入れる打ち方だった。

 特に(09年に)ワールドシリーズでMVPを獲得した時のホームランは、片手で持っていくような打ち方で、あれが一つの到達点だと思う。当然、これは逆方向に本塁打を打つのは難しい。左手のパワーが伝わらない。

 2人の共通点は、頭を動かさないで振っていくところ。体を残して、その場で回っていく形。そこで体が弓なりになることで、バットが下から入っていく。大学では、実はあまり教えられない。ボールを捉えられないと思う。ボールが下がってくるところにもう一個下から入れるという感じなので、難度が高い。(さらに)体が強くないと振れない。

 ◇川村 卓(かわむら・たかし)1970年(昭45)5月13日生まれ、北海道出身の51歳。札幌開成では主将で3年夏に甲子園出場。筑波大でも主将を務めた。卒業後は浜頓別高で監督を務め、00年から母校・筑波大野球部の監督に就任。大学では体育会系の准教授でコーチング学や野球方法論を専門分野とする。

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