【内田雅也の追球】「息苦しさ」象徴の序盤敬遠 1点惜しみ6点失った阪神 打線復調には泥臭い粘り

[ 2021年7月3日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神1-7広島 ( 2021年7月2日    マツダ )

<広・神(8)>5回 2死 四球を選ぶ代打・北條(撮影・成瀬 徹)
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 2回裏2死二塁となって、捕手・梅野隆太郎がタイムを取り、マウンドの西勇輝のもとに向かった。実に慎重だった。

 迎えた8番・安部友裕と勝負するのか、歩かせて9番投手の玉村昇悟と勝負するのか。エースの意志も確認したうえ、ベンチは申告敬遠の指示を出したのだった。

 安全策を取ったはずの敬遠がしかし裏目に出る。玉村のボテボテは投手内野安打となり満塁。打順は1番に回り、4連続長短打を浴びるのだ。

 1点を惜しんで6点を失う最悪の結果だった。

 安部を迎えた場面。すでにこの回先頭の鈴木誠也に先制ソロを浴びていた。0―1だが「もう1点もやれない」との心境だったのではないか。阪神は早くも追い詰められていたのである。

 何しろ打線が低調で得点力が落ちている。つい3試合前(6月29日・ヤクルト戦)も同じ2回2死二塁で8番打者を申告敬遠していた。この時は次打者の投手を打ち取っていた。

 ヘッドコーチも務めた木戸克彦(現プロスカウト部長)が「序盤から敬遠すると息苦しくなる」と話したのを覚えている。「チームとして息が詰まる。相手はよく打順が回り、試合が進むにつれ相手ペースになる」

 今の阪神はまさに「息苦しい」状態なのだ。敬遠策の心理は十分理解する。非難しているのではなく、息が詰まるほど苦しいチーム状態にあるということである。

 問題はやはり打線だろう。この日は前夜4番のジェリー・サンズに佐藤輝明、中野拓夢の両新人を先発から外した。新外国人メル・ロハス・ジュニアや若い小野寺暖を抜てきし、大幅変更の新オーダーを組んだ。てこ入れも必要である。

 序盤の7失点で成果のほどは計りづらかった。ただ、打線復調に特効薬も近道もない。もちろん打撃には波があり、好不調が交互に訪れる。各打者は真摯(しんし)に、もっと書けば愚直に好球必打するしかない。

 まずは投球に食らいつきたい。古田敦也は不振時の気構えとして<フォアボールで出ようとする>と著書『うまくいかないときの心理術』(PHP新書)に記した。<打ちたい気持ちを我慢して時を待つ>のである。

 7点差がついた後の4回表にジェフリー・マルテ6球(四球)、5回表に梅野9球(三ゴロ)、北條史也8球(四球)……と粘った。

 9回表2死、先発起用の山本泰寛、途中出場の北條が「最後の打者」にならなかった。出場機会のなかった山本や北條の気概が見えただけでも、オーダー変更の意味はあった。チーム内にプロらしい競争意識はあるのだ。大差でもベンチ内でふんぞり返る選手はいなかった。

 2位巨人とは1・5ゲーム差。勝率の関係で、3日にも首位陥落の危機にあるそうだ。何度も書くが、ゲーム差や順位など気にしている時ではない。

 この夜見えた泥臭さの先にトンネル脱出の光が見えるだろう。そう信じている。 =敬称略= (編集委員)

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2021年7月3日のニュース