五輪への私見はタブー…夢舞台が批判の矢面に 努力重ねた選手、関係者が報われない

[ 2021年5月28日 09:00 ]

横浜スタジアム
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 最近は「コロナ禍」で、選手やチーム関係者と顔を合わせて会話をする機会はかなり限られている。そんな状況でも、たまに会話を交わすと決まって聞かれることがある。

 「オリンピックやるんですか?」

 こちらも明確な回答を持ち合わせておらず「分からない」とか「やるつもりみたいだけど…」とあいまいに答えるしかないのだが。そして、ほぼ100%の確率で「無理でしょ」と返ってくるまでのやりとりがお約束。交流戦がスタートしたばかりだが、東京五輪開催の可否はプロ野球界でも最大の関心事の一つになっている。

 以前から東京五輪出場に強い意欲を示していた侍ジャパン候補のある野手は「選んでもらえるなら当然出たいですよ。その気持ちは変わっていないけど…」と前置きした上で「今のこの空気で、五輪について聞かれても“何が何でも出たい”なんて言えないじゃないですか。世の中には大変な思いをしている人がいっぱいいるわけだし」と複雑な表情で話す。別の候補選手も一様に同じ反応だった。

 選手たちの胸中を察してか、開幕(予定)まで2カ月を切っているにもかかわらず、選手の取材中に「五輪」に関する質問や話題が出ることは滅多にない。メディア側も「選手も答えづらいだろう…」と遠慮している感は否めない。連日のようにどこそこの球団からまた陽性者が出た、などとと発表されればなおさらだ。

 開催の可否を気にしているのは、代表候補選手に限ったことではない。今季のプロ野球の日程は五輪開催を前提に、7月16、17日の球宴後は8月12日までシーズンが中断されることになっている。これは全チームに関わるだけに「オリンピックやるんですか?」と素朴な疑問を抱くのも自然なことだろう。

 誰もが納得する形で開催された大会で最高のパフォーマンスを披露するべく、アスリートたちは今この瞬間も研鑽を積んでいる。夢舞台が批判の矢面に立つ状況を、どのように受け止めているのか。どの競技でもメンタルは極めて重要な要素。モチベーションに関わるのではないかと心配にもなる。もはや五輪に関する私見を口にすることは「タブー」となっており、選手たちにそのリスクを負わせるべきではない。彼らの本音を聞けるとしても、きっと全てが終わってからだろう。

 開幕(予定)まで56日。本当なら「五輪モード」でワクワク感が日に日に高まり、熱気を帯びたスポーツの明るい話題で盛り上がっている時期だろう。それなのに、五輪関連のニュースといえばネガティブな話題ばかり。これじゃ、血のにじむような努力を重ねてきた選選手や関係者たちが報われない。(記者コラム・重光 晋太郎) 

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2021年5月28日のニュース