【内田雅也の追球】よく眠れる敗戦 大差の後も真摯に戦った阪神

[ 2021年5月19日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神3ー14ヤクルト ( 2021年5月18日    甲子園 )

<神・ヤ(8> 6回、ロハスは中前適時打を放つ
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 エース・西勇輝の乱調に加え、2番手に出た小野泰己の大乱調で試合は壊れてしまった。6回表で1―9である。

 しかし、今季の阪神の強さを見たのはこの大差がついた直後、6回裏の攻撃だった。

 近本光司、佐藤輝明、メル・ロハス・ジュニアが放った3本の安打はすべてセンター返しの中前打だった。

 ジェフリー・マルテは0ボール2ストライクから際どい球を見極め、梅野隆太郎はファウル5本で粘り、四球を選んだ。

 この回2点をあげたのだが、ひょっとすると……との思いもよぎった。

 「あきらめない」という思いもあるのだろうが、少し違う気がする。大差がついた展開で、時に(優勢側も劣勢側も)散見される粗さや強引さはなく、真摯(しんし)な姿勢が伝わってきた。

 最終スコアは14―3だが、1敗は1敗である。問題はきょう以降に引きずるかどうかだが、この戦い方であれば、悪影響はないとみている。

 敗因は冒頭に書いた西勇と小野の乱調だが、打線は序盤、初対戦の新外国人サイスニードの球威に押されていた。

 本名はサイ・スニードでファーストネームとファミリーネームをつなげて登録名にしている。サイは、大リーグの年間最優秀賞投手にその名を残すサイ・ヤングと同じだ。ただ、サイ・ヤング本名をデントン・ヤングといい、「サイ」はニックネームだ。歴代最多511勝をあげた速球がサイクロン(暴風)のようにうなりをあげるという意味である。

 サイスニードも速球が武器だった。1メートル93の長身で角度がある。問題は高めボール球速球に手を出していたことだ。

 1回裏は3人とも高めボール球速球に凡退。2回裏のメル・ロハス・ジュニア、4回裏の佐藤輝明も高めボール球速球を振っての三振だった。

 初めて速球を仕留めたのは5回裏のロハスで、外角150キロを中越え本塁打した。22打席目の来日初安打だった。無安打の間、強引さを戒め、小さく鋭く振り抜こうとした一撃が手本となった。3巡目の6回裏には降板に追い込んでおり、次の対戦への期待は持てる。

 監督・矢野燿大は捕手だった現役時代、勝った試合後の方が眠れなかったという。勝利に貢献できた喜びがよみがえったり、投手たちの笑顔を思い出したりして、明け方近くまで眠れなかった。

 反対に負けた時はよく眠れた。著書『捕手目線のリーダー論』(講談社)に<不思議なもので、負け試合のときは意外と冷静にその日の反省をし、翌日に引きずらないためにスパッと切り替えることができていました>とある。惨敗ならなおさらだろう。

 阪急、近鉄を球団創設初優勝に導いた西本幸雄は厳しく、激しい闘将で、苦虫をかみつぶしたような顔の印象が強いが、実際は明るさを失わない、前向きな指揮官だった。こうした敗戦の後、よく口にしていたのが「カエルの面(つら)に小便」だった。ケロッとしておけという意味である。

 近畿地方は統計史上最も早く、16日に梅雨入りした。試合中、甲子園に降った雨も、敗戦後には上がり、雲の切れ間に星も見えていた。よく眠れる敗戦である。 =敬称略= (編集委員)

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