【内田雅也の追球】「完璧」では不十分

[ 2021年2月26日 08:00 ]

阪神のシートノックで走者・小幡(左)を挟み、送球する大山(撮影・椎名 航)
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 キャンプの練習メニューには首脳陣の意図が現れる。沖縄・宜野座での阪神キャンプは25日、最終第6クールを迎え、「ケースシートノック」が行われた。「総合守備練習」とカッコで説明がついている。走者をつけ、場面、打球に応じた守備の総仕上げである。

 もちろん、オーケーのプレーばかりではない。ただし、失敗の中にこそ進歩の種がある。

 一例をあげる。1死一、三塁。緩いゴロが一塁前に転がり本塁送球。三塁走者を三本間で挟撃した。捕手・坂本誠志郎が三塁手前まで追い詰めた時、一塁走者が三塁手前にきていた。三塁送球したのだが、三塁手・大山悠輔は三塁走者にタッチし、一塁走者の三塁進塁を許した。

 先に後ろの走者にタッチしていれば、三塁走者は再び挟殺して併殺を取れていた。直後、バッテリーコーチ・藤井彰人の下に4人の捕手陣と大山が集まっていた。三塁手は左後方の走者が見えるのか、送球する捕手はどんな声がいるのか……2人の走者を刺すための確認作業だと見ていた。

 先に「総仕上げ」と書いたが、それはキャンプに限った表現である。

 <完璧では十分じゃない>と米コラムニスト、デイル・ドーテンの『仕事は楽しいかね?』(きこ書房)にある。世界的なフルート奏者ジャン・ピエール・ランパルの言葉「コンサートで完璧に演奏できたとします。翌日にはさらに素晴らしい演奏をするのです」が紹介されている。完璧だと思った瞬間から、進歩は止まってしまう。<完璧とはダメになる過程の第一段階>なのだ。

 東大野球部監督、日本野球規則委員長などを務めた神田順治は『野球にはあらゆることがあてはまる』(ベースボール・マガジン社)で<芸術家と詩人は生涯練習を必要とする>と彫刻家オーギュスト・ロダンの遺書を紹介している。「たゆみなく練習せよ。自らを技法に慣らさねばならぬ」。<野球選手もそのようである>としている。

 守備力強化で22日まで臨時コーチを務めた川相昌弘が著書『ベースボール・インテリジェンス』(カンゼン)で<野球人生の原点>として<父から教わったことわざ>を記している。「手習いは坂に車を押すごとし」

 油断すると元に戻ってしまう。絶えず努力しなくてはいけないとの意味だ。背筋が伸びる言葉である。 =敬称略=
 (編集委員)

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