「何が起こっても驚かない」混乱の中開幕する大リーグ 戦える、観戦できる喜びが続くことを願い

[ 2020年7月21日 09:00 ]

19日にヤンキースタジアムで無観客の中で開催されたヤンキースとメッツの対外試合でのシーン
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 ヤンキースは19日(日本時間20日)、ヤンキースタジアムでは初めてとなる無観客の対外試合を開催した。同じニューヨーク市内のメッツと対戦したオープン戦。日本のファン、関係者はもう無観客試合にも慣れたかもしれないが、MLBではまだ馴染みはなく、やはり違和感は禁じ得なかった。

 ヤンキースの選手紹介時、おなじみの「スターウォーズ」のテーマが流れても、スタンドはもちろん静かなまま。ゲーム中は人工の歓声が流されたが、寂しさは否めない。一部の選手がカメラマン席やダッグアウト裏の観客席で戦況をのんびりと見守る姿には、どこか草野球的な雰囲気すら漂った。

 「失礼なことを言うつもりはないが、(いつもガラガラの)マーリンズ戦みたいだった」。試合前、前日に無観客ゲームを経験したメッツのブランドン・ニモ外野手は少々ブラック(?)なジョークを飛ばしていたが、選手たちも、この環境に適応するのには少し時間が必要なのだろう。

 もっとも、今の米国の状況を考えれば、こうして無観客でも試合が無事に挙行できるだけいいのかもしれない。米国内では依然として新型コロナ収束の気配は見られず、16日に過去最多の7万1000人超という感染者を記録したばかり。そんな状況下で、毎日何らかの不穏なニュースが耳に入ってくる。

 デービッド・プライス投手(ドジャース)、バスター・ポージー捕手(ジャイアンツ)のような大物が既に今季の欠場を表明。検査で陽性反応を示す選手も後を絶たない。一昨日にはヤンキースが開幕戦を行うワシントンDCで試合が挙行できない可能性が伝えられ(結局、ゴーサインが出た)、18日はトロント政府の許可が得られなかったブルージェイズがカナダでのホームゲームを断念したとの報道も届いた。開幕までもうあと5日もないというのに、このバタバタぶりである。

 NBAやMLS(メジャーリーグサッカー)は1カ所に全チームを集め、ウイルスを可能な限り締め出す、いわゆる「バブル作戦」を採用したが、MLBはそれぞれの本拠地でホームゲームを行う従来通りの開催方法を貫いた。この方向性は本当に適切だったのか。現在は感染者が落ち着いているニューヨーク市内に限れば、実は今はそれほど危機感はないのだが、大変なのは全チームが飛行機、電車、バスでの頻繁な移動を余儀なくされるシーズン開始後だろう。

 何とか開幕までこぎ着けたとしても、最後まで遂行できるのかを疑いたくもなる。フロリダ、テキサス、アリゾナの3州など、既に感染爆発が起きている地域では、さらなる集団感染がいつ発生しても不思議はないという思いが、全ての選手、関係者の胸にあるはずだ。

 「2020年中に何が起こっても、もう驚かない」

 ヤンキースのアーロン・ブーン監督はそう述べていたが、「パンデミック(世界的流行)下のシーズン」が、どんな方向に向かっていくのかを予想するのは難しい。楽観的になるのは簡単ではないが、シーズン中断や中止のダメージは計り知れないだけに、とにかく、何とか無事に60試合&プレーオフが実行されてほしい。シーズンが進むにつれて、徐々にウイルスも落ち着き、優勝争いも盛り上がるという奇跡的な流れに期待したいところだ。
 「たとえ無観客でも、実際にフィールドに選手たちが立てるのはエキサイティングなことだった」

 メッツのルイス・ロハス監督のそんな言葉通り、しばらく紅白戦ばかりだっただけに、他のチームと普通に対戦できることに選手たちも喜びは感じたはずだ。おそらくテレビの視聴者も同じだろう。たとえ無観客でも、ベースボールは素晴らしい。そうやって実感できる日々が続くことを、史上最も先が見えないシーズンの開始前に、心から願うばかりである。(記者コラム・杉浦 大介通信員)

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2020年7月21日のニュース