【内田雅也の追球】甲子園の球速“速くなる” トラックマン計測値を採用へ

[ 2020年2月7日 08:00 ]

宜野座のブルペンにも設置されている「トラックマン」
Photo By スポニチ

 阪神の本拠地、甲子園球場スコアボードの球速が今季から「スピードガン」ではなく、「トラックマン」による数値で表示されることになった。球場、球団双方の幹部が6日までに明かした。

 城島和弘球場長は「より正確な数値を表示するため」と話した。

 スピードガンは対象物(野球ならボール)に電波を照射し、反射波の変化から対象物の速度を導き出す。自動車の速度違反取り締まりに使われる「オービス」の原理だ。

 本来は投手の正面、真後ろから測定するのがあり方だが、電波が捕手や球審にさえぎられる。このため、角度をずらして設置することになり、球場によって誤差が出る。

 甲子園では「左投手の数値が低く出る」などと言われた。近年は特にシーズン開幕当初の春先に誤作動や誤表示が多かった。直球でも97キロや187キロといった明らかに誤った表示があった。毎年調整や整備を行っていたが改善にはいたっていない。

 トラックマンは元は軍事用レーダーに使われる装置から開発された弾道測定器で、ドップラー効果を利用して計測する。スピードガンよりも正確な速度が計測できると評判だ。球速のほか、投球の回転数や打球の初速、角度などがわかる。

 プロ野球では2014年に楽天が初めて導入。甲子園は18年に設置された。現在は広島を除く11球団が使用している。

 甲子園球場で統計をとってみると、スピードガンの球速はトラックマンよりも遅い数値だった。誤差は2~3キロと言われる。

 球速には投手がボールをリリースした直後の初速と、捕手が捕球する直前の終速がある。球速表示は初速で行うが、スピードガンでは厳密な初速ではなく“途中速”の場合があるそうだ。トラックマンでは文字通りの初速で、このため、スピードガンよりは速い数値が出る場合がある。

 DeNAの国吉佑樹が昨年4月6日、巨人戦で自己最速の161キロをマークしたのは、横浜スタジアムの球速表示がトラックマンになったからだと言われた。

 甲子園球場の球速表示で過去最高は日本ハム・大谷翔平(現エンゼルス)が14年7月19日、オールスター戦で出した162キロ。阪神ではラファエル・ドリス(現ブルージェイズ)の161キロ(17年8月29日)、藤浪晋太郎の160キロ(16年9月14日)がある。

 もちろん、藤浪自身も言うように目指すべきは球速よりも球質だが、新表示で臨む今季、球速更新の期待も膨らむ。

 球速ばかりを競うわけではないが、球団幹部によると「誤表示は選手間でも不評だった」。正確な表示は投手だけでなく、打者やチーム全体にも好影響を与えるだろう。

 今回の球速表示変更はプロ野球だけで、春夏の高校野球では従来通り、スピードガンによる表示を続ける。

 トラックマンの集計データはプロ野球全球団で共有することになっている。トラックマン社にも転送され、大リーグ球団への流出も懸念される。高校球児のいわゆる青田買いに利用されるかもしれない。

 球団幹部は「主催の日本高校野球連盟(高野連)などが難色を示し、タイガースも理解した」と甲子園大会でのトラックマン使用を見送った。(編集委員)

続きを表示

この記事のフォト

2020年2月7日のニュース