東京五輪、侍ジャパン4番・誠也は突き抜ける 金の夢へメジャーの夢へ

[ 2020年1月3日 13:00 ]

新春球界インタビュー(1)

東京五輪での金メダルを目指してポーズを決める鈴木(撮影・坂田 高浩)
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 2020年のプロ野球は、どんな未来が待っているのだろうか。「新春球界インタビュー」と題し、3回にわたってお届けする。第1回は今夏の東京五輪で金メダルを目指す侍ジャパンの主砲として期待される広島・鈴木誠也外野手(25)。東京五輪に懸ける思いから、世界一に輝いたプレミア12の裏話、そして近い将来のメジャー挑戦まで余すところなく語った。(聞き手・江尾 卓也)

 ――五輪で3大会ぶりに復活する野球は開催国枠で日本の出場が決定しており、7月29日に開幕戦(福島)を迎える。
 「国を代表して参加する以上、絶対になめられるわけにはいかない。日本は強い、日本の野球は負けない…ということを示すのが五輪。WBCでもプレミアでも同じです。日本代表で出るということは、そういうことだと思っています。東京での五輪開催は一生に一度あるかないか。出られるのであれば誇らしいし、凄いこと。名前が残りますしね。自分をレベルアップする上でも大事だと思います」

 ――昨年11月のプレミア12での活躍が記憶に新しい。決勝まで全8試合で4番を務め打率・444、3本塁打、13打点で優勝に貢献し、MVPに。日本の主砲には昨秋以上の期待と注目が集まる。
 「皆さんに喜んでもらえるプレーをしたいですね。打てば気持ちがいいけど、そういうのは必要ない。目標は優勝。自分が打てなくてもチームが勝てばそれでいいです」

 ――希求する金メダル。実現すれば84年ロサンゼルス五輪以来36年ぶりの快挙となる。
 「シーズン143試合、全部が全部は勝てない。大敗した試合でも3本打てば、多少は気持ちが楽になるんです。でも侍ジャパンだとそうはいかない。3本塁打しても、負けてしまえば全然気持ちよくない。それぐらい違う。代表では、自分の結果や評価はどうでもいいです」

 ――昨秋の「前哨戦」では集中力がキラリと光った。一発勝負で、初見の投手が相手の国際大会。いかにして攻略したのだろうか。
 「初見は苦手だし、一発勝負というか短期決戦も僕は苦手です。ただ、プレミアでは遊び心を持って臨んだ打席で1本が出て吹っ切れ、アッ、こういう感じで乗っていけばいいんだ…という感覚があったので」

 ――1次ラウンド初戦のベネズエラ戦は第3打席で中前適時打。
 「緊張して最初2打席はミノサン(見逃し三振)でした。いつもと違うのが分かったので、3打席目は山田哲人さんの打ち方をマネたんです。今日は哲人さんでいかないといけない。よっしゃ、思い切って左足を上げていこう――。そうしたらバーンと(笑い)」

 ――出場5試合で打率・214に終わり、不完全燃焼だった17年WBCとは一転、今回のプレミア12では世界一に最も貢献した。東京五輪でも4番に指名される公算大。日本代表での立ち位置、存在感は大きく変わった。
 「今回はある程度やった中で呼んでもらい、当時とは違う視点から他の選手を見ていました。ただ4番での結果は、周りの人たちに助けられたおかげ。助言やヒントもそうだし、前後にいい打者がいたので気持ち的にも楽でした。僕が打てなくても、つなげば還してくれる。そういう意識で臨めたことも、結果につながったと思います」

 ――そのネームバリューは国際的にも格段に上がった。将来的なメジャー挑戦希望はあるのだろうか。
 「野球人として自分をレベルアップさせるために、そこでプレーしてみたい気持ちはあります。日本でどうなりたいとか、どの選手を目標にしている…とか、そんなのは僕にはなくて、自分が思う理想像に向かって突っ走る、突き抜けろ!って思っているので、チャンスがあれば」

 ――昨季は自身初のタイトルとなる首位打者、最高出塁率の2冠に輝きながら、チームはリーグ4連覇どころか4位に終わった。20年は佐々岡新監督の下で雪辱を期す。
 「個人的に良くても4位に終わったらやっぱり面白くない。野球は9人で戦うもの。1人では無理なんです。1人が頑張っても限界があるんです。みんなが同じ方向を向いて戦わないといけない。その点、個人個人が自我を捨て本気で戦えたかというと、去年は…ね」

 ――プライベートでは新体操で2度の五輪出場経験があり、スポーツキャスターとしても活躍する畠山愛理さん(25)と結婚。公私ともに充実し、ますます期待が膨らむ。
 「結婚と野球を頑張ることは、僕の中でリンクしていないです。勝負の一年…とか言うじゃないですか。ないんですよ、そんなの。毎年勝負なんだから。毎年どうなるか分からない。その恐怖心で頑張るんです。ケガをしたら終わり。他にも選手はいる。出てくるんです。だから目標を高く持って、妥協せずに突き進んでいこうと思っています」

 【取材後記】還暦目前のロートル記者でも、誠也のようなタイプは初めてだ。記事でも触れたベネズエラ戦の2打席連続見逃し三振。結果を欲しがって力んでしまいそうな状況だが、彼は時に遊び心を持ってスパッと切り替える。
 「いろんな選手を見て“あ、この人の入り方が一番いい。じゃあ、マネしちゃおう”という感じです」
 それが山田哲人だったというわけだ。簡単そうで簡単じゃない。無論、形態模写をしているわけでもない。打つための方策を練り、ベストと判断して取り入れた打法だ。少し前には仰天するようなことも耳打ちされた。
 「中学生の頃から、自分の打席を間近から客観的に見ている自分がいるんです」。連続三振に「腹が立つ」と言いつつ、自分の今を分析できる客観的な目。即座に修正できる技術。恐るべし。東京五輪でもきっと期待に応えてくれる。(広島担当・江尾 卓也)

 ◆鈴木 誠也(すずき・せいや)1994年(平6)8月18日生まれ、東京都出身の25歳。二松学舎大付ではエースで最速148キロ、高校通算43本塁打も甲子園出場はなし。12年ドラフト2位で広島に入団。17年から4番を務め、昨季は首位打者、最高出塁率のタイトルを獲得。16~19年にベストナイン、16、17、19年にゴールデングラブ賞を受賞。通算成績は652試合で打率・317、119本塁打、399打点。1メートル81、96キロ。右投げ右打ち。

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