読む野球

[ 2019年8月13日 08:00 ]

「フィールド・オブ・ドリームス」の舞台で公式戦が行われることが発表された(AP)
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 【我満晴朗 こう見えても新人類】東京オリンピックの入場券より、この試合のチケットが欲しいぞ。

 メジャーリーグは来年8月13日、映画「フィールド・オブ・ドリームス」の舞台となった米アイオワ州ダイアーズビルで記念試合を実施すると発表した。撮影で実際に使用した球場の隣接地に仮設スタジアムを建設し、ホワイトソックスとヤンキースの公式戦を行うという。

 プレスリリースによるとキャパシティーはたったの8000。となると、両チームや地元関係者で大部分が埋まってしまうだろう。果たして一般販売の余地はあるのだろうか? 販売されるとして、お値段は? 今からやきもきしている。結局、日本でテレビ観戦に落ち着く公算大ではあるが。

 ところで件の映画で重要な役割を担うのはホワイトソックスの「シューレス」ジョー・ジャクソン。ちょうど100年前のワールドシリーズで八百長に関与し、永久追放処分を受けた名外野手だ。とはいってもプレーで手を抜いた形跡はなく、潔白を信じているファンは数多い。

 ブラックソックス・スキャンダルと名付けられたこの不祥事で処分を受けたのは計8人。実はこの中にもう1人、限りなく「シロ」に近い選手がいたらしい。ショートで堅守を誇ったスウェード・リスバーグという選手だ。

 そのリスバーグをモデルにした短編小説がある。1983年に文春文庫から発売された「野球小説傑作選 12人の指名打者」の掉尾(とうび)を飾る「閃(ひらめ)くスパイク」(フランク・オルーク作、稲葉明雄訳)。

 舞台は「あのうだるように暑い八月の午後」だ。主人公は19歳の大学生で、将来有望な遊撃手。地元のイベントでさえない巡業チームとのエキシビション試合に出場する。相手チームのショートストップは白髪交じりの中年で、どこか謎めく風貌だ。

 試合半ばで彼の素性が明らかになる。例のスキャンダルで野球界を追われた「黒い靴下」の一員だったと。

 正体が暴露され、球場全体から憎悪の的となる中年選手。主人公は若さゆえの正義感から二塁打を放った際にスパイクの歯を彼に向けてスライディングし、流血を導いた。それでも彼は恨み言一つ吐かない。治療中、むき出しになった彼のすねに刻まれた無数の傷痕を偶然目撃した主人公の心境は大きく揺れる。そして…。

 「フィールド・オブ・ドリームス」のラストシーンも感動的だったが、この小品もなかなかの読後感だった。

 ちなみに同書に収められている「馬が野球をやらない理由」(ウィルバー・L・シュラム作、永井淳訳)もお勧めの一編。ここまですっとぼけた野球小説も珍しい。甲子園観戦で熱くなった頭を心地よく冷やすこと請け合いです。(専門委員)
 

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