阪神・岩貞 故郷・熊本に届けた希望1勝「ようやくという感じ」

[ 2017年4月19日 05:53 ]

セ・リーグ   阪神3―1中日 ( 2017年4月18日    ナゴヤドーム )

<中・神>3回2死一、二塁、ピンチでゲレーロを一飛に打ち取った岩貞
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 阪神・岩貞祐太投手(25)が18日、中日戦(ナゴヤドーム)で今季3度目の先発を果たし7回2/38安打1失点の好投で初勝利を挙げた。昨年4月14日に故郷を襲った熊本地震から1年が経過して迎えた自身初のマウンドで躍動した。

 力投は、確かに故郷へ届いたはずだ。「熊本」を思い、岩貞が力強く腕を振った。「(初回の)中谷のプレーがあったので、どんどん腕を振って飛ばしていけばいいと。初回のプレーに助けられた」。初回2死三塁でビシエドの右中間への飛球を中谷がダイビングキャッチ。バックの好守に勇気をもらい、ギアは上がった。走者を背負っても動じることなく、8回2死まで1失点。過去2戦はともに立ち上がりにつかまり計10イニング9失点。2軍降格もちらつく背水の一戦で「ようやくという感じ」と3度目の正直で今季初勝利をつかんだ。

 「俺たちの“待ち合わせ場所”が…」

 電話口の友人は、悲しみと恐怖に打ちひしがれ涙を流していた。昨年4月14日、故郷・熊本を襲った大地震。幼少期に遊びに出かける際に、必ず待ち合わせ場所にしていた馴染みのスーパーは、無残にも倒壊。当たり前のようにあった風景が、消えてなくなった。

 2日後の4月16日、この日と同じナゴヤドームのマウンドに立ち7回無失点の快投も、葛藤は大きくなり、投げる意味を見いだせないでいた。

 「正直、野球どころではないと思いましたし、自分が勝っても、勝たなくてもいいやと思ってました。とにかく熊本のことが心配だった」

 被災地に駆けつけたくても、できない。目標を失い、さまよった。悩み苦しんでいる時、前を向かせてくれたのは、傷ついているはずの熊本の人たちだった。

 「僕の投球を見て、熊本の人たちが“勇気をもらった”“元気をもらった”と連絡をくれたんです。そうなんだと。自分が勝つことの意味を、そこで理解できた。離れたところでニュースを見て、ショックを受けている僕たちより、被災している人たちの方が前を向いていた」

 熊本で暮らす弟・拓実さんは震災翌日から被災地に出向いて救援活動を行っていた。復興へ歩み出す人々。前へ進むしかない。投げる「理由」が見つかった。

 今季1勝につき義援金10万円、1奪三振につき益城町の少年野球チームに軟式球1ダースの寄贈を決めた。「(奪三振で寄贈する)ボールばっかり送ってますね…」と渇望していた白星を、ようやくつかんだ。

 「まだまだ(被災地は)厳しい状況は続く。風化させることなく僕自身忘れることなく。野球しかできることがないので」。遠く離れても、届けることのできる「希望」がある。「野球選手じゃなくても、僕の故郷は熊本なんで」。113球にはそんな思いがつまっていた。(遠藤 礼)

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