巨人・阿部の「一塁手転向」決断(3)背中押された指揮官のメール

[ 2014年12月28日 11:00 ]

引退覚悟で再出発する阿部

 秋季練習が始まる前日の10月26日。阿部の携帯電話が鳴った。メールの送り主は原監督だった。「来年のことについて明日、2人だけの世界で話をしよう」。来季、一塁に転向するかどうかで頭を悩ませていた男に決断が迫られていた。「そろそろ来るかなって予感はしてたんだよね」

 リーグ3連覇を成し遂げながら、阪神とのCSファイナルS(東京ドーム)ではまさかの4連敗。阿部は全4試合で4番に座りながら16打数2安打、打率・125と振るわなかった。それから8日間は自問自答の日々だった。父親にも相談した。「振り返りたくない」という今季の自分と真っすぐ向き合い、冷静に見つめ直した。

 指揮官から、もう1通メールが届いた。一塁転向へ背中を押す内容だった。覚悟は固まった。「45歳のおっさんだとやめろと言われるだけ。あと何年できるか分からないけど、来年に向けて自分が何をしなきゃいけないのか考えた」。長く現役を続けるため、チームを日本一に導くために何をするべきか。出した答えは、主軸としてバットでけん引することだった。

 「阿部慎之助=捕手」。それが世間に浸透したイメージだ。「(ナインから)冗談ですよね?第1弾のリップサービスですか?って言われたよ」と阿部は笑う。12年に阿部と最優秀バッテリー賞に輝いたエース・内海は「存在が偉大すぎて、捕手にいないことが想像できないです」と心境を素直に吐露する。

 高2から続けてきた捕手からの「卒業」。阿部にとって「捕手」とは何なのか。「永遠に極められない難しいポジション、かな」。重みのある言葉だった。「正解がないから」と続けた。相手打者を抑えるための配球は、全て自分の判断に委ねられ、選択肢は無数にある。「自分をこういう選手に成長させてくれたのは捕手というポジションだったからだと思う」と感謝を込めて言った。

 唯一、心がけていたことがある。負けた当日には打たれた投手と反省会をしない。「翌日の方が冷静に振り返れる。投手も自分で分かってるから」。翌日、球場で声を掛ける。「あの四球が痛かったな」と。捕手の苦労や難しさを誰よりも理解しているからこそ、強く願う。「日本は捕手の評価が低すぎる。過酷だよ。打たれた責任は捕手にいく。もっと評価してもらえたら」

 36歳、15年目を迎える来季は、引退を覚悟で再出発する。最後に意地悪な質問をぶつけてみた。「原監督からメールが来なかったら?」。阿部は迷わず答えた。「それでも(一塁へ)行ってると思う」。新人のようにギラついた瞳と明快な口調に、強い決意がにじんだ。

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2014年12月28日のニュース