新ルールに“世界一”の対応 柔道日本代表、東京五輪へ頼もしいチーム力

[ 2017年9月11日 11:10 ]

柔道の世界選手権が行われた会場前で記念写真に納まる(前列左から)新井千鶴、志々目愛、渡名喜風南、(後列左から)ウルフ・アロン、橋本壮市、阿部一二三、高藤直寿ら金メダリスト
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 柔道世界選手権の大会期間中、セルビア人ジャーナリストの取材を受けた金野潤強化委員長は、こんな質問をぶつけられたという。「審判は日本をプロテクトしているのではないか?」。少々かみ砕くと「このルールは日本に有利なのではないか?」といったところか。

 五輪翌年の今回の大会で日本勢が個人戦で獲得したメダルは、金7個を含む12個。男女同時開催となった87年以降で無差別級を除く7個の金メダルは、10年東京大会の8個に次ぐ数字。7年前の大会は各階級に2選手が出場していたことを考えれば、それに匹敵する成果と言えるのではないか。特に初日から2日間は男女アベック優勝。セルビア人ジャーナリストの“やっかみ”も、理解できなくはない。

 今年2月から試験運用されている新ルールは、男子の試合時間短縮(5分→4分)、有効の廃止、通常の試合時間内では指導差で勝敗を付けない、などの変更点がある。全ては柔道という競技の本質を見直し、魅力を高めるのが目的だが、特定の国にメダルが偏れば、本当にこのルールでいいのか?という議論が起こるのは、どんな世界でも同じ。1998年の長野五輪後、スキージャンプの板の長さに関するルールが変更されたのは、最たる例だろう。

 とはいえルールの変更だけが日本にこれだけのメダルをもたらしたかと言えば、そうではないとはっきり否定できる。実際に他国の代表を取材しているわけではないが、日本代表の準備の周到さは、おそらく結果の通り世界一だった。特に出場した全6階級で決勝出場を果たした女子の場合、リオデジャネイロ五輪後に就任した増地克之監督を中心に取り組んだ「フィジカル」と「寝技」の強化が試合内容にしっかり現れている。9選手が計46試合を行い、勝ったのは計39試合。うち寝技による一本や技ありで勝負が決まったのは19試合と、ほぼ半数に上った。新ルールで寝技を長く見る傾向を読み取り、ブラジリアン柔術の専門家などを呼んで合宿を積んできた成果だろう。

 新ルールは10月に国際柔道連盟の会議で再検証されるが、大幅な変更なく、20年東京五輪でも適用される公算が高まっている。ルールが固まれば、他国も日本を追随し、このまま黙ってはいないだろう。それでも大会期間中、常にアリーナの2階席最上段に陣取り、全試合にビデオカメラを向けて情報収集をしていた日本代表のチーム力を目の当たりにし、今は頼もしさだけを感じている。 (記者コラム・阿部 令)

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2017年9月11日のニュース