岸部一徳 “自信のなさ”が生んだミステリアスな雰囲気

[ 2016年5月15日 12:30 ]

さまざまなキャラクターを変幻自在に演じる岸部一徳

俺の顔 岸部一徳(下)

 映画やドラマに欠かせない俳優・岸部一徳(69)。半世紀前、グループ・サウンズ(GS)ブームをけん引した「ザ・タイガース」のベーシストでリーダーの「サリー」として一世を風靡(ふうび)した。俳優に転身し「一徳」の芸名を得てから約40年。着実にキャリアを積んできたベテラン俳優の根底には、意外にも「自信のなさ」が隠れていた。

 本名は修三(しゅうぞう)で、ベーシスト時代は「おさみ」の読みで活動。「一徳」は、70年代後半、本格的に俳優活動を始める時に所属した事務所の女優・樹木希林(73)が命名した。父・徳之輔さんと、親しかった脚本家の故市川森一さんから1字ずつもらい、「最初は古くさい名前だなと思ったけど、希林さんに“20年したら似合う”と言われたんです」。

 その言葉は予言のようになり、90年代になってその名で大きく飛躍。90年の小栗康平監督「死の棘」で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞などを受賞。茫洋(ぼうよう)とした風貌で、温厚なおじさんからこわもてのヤクザ、癖のある役まで映画やドラマに引っ張りだこになった。

 最新映画「団地」(6月4日公開)で演じるのは、団地で暮らす平凡な夫。ささいな出来事でへそを曲げ、床下の収納庫に潜り込んでしまう役どころで、藤山直美(57)演じる妻との軽妙な掛け合いで笑わせる。メガホンを取った阪本順治監督の作品は常連だが「監督と楽しく酒を飲んだりすることもあるけど、現場では毎回緊張感を持ちます。つまらない俳優だと監督が思ったら、次の機会はない。緊張感や新鮮味があるかどうかが大事」と真摯(しんし)に向き合う。

 普段ベースに触ることはなく、気の向くままにビートルズを聴いたりする。休日は「何もしない。うっかりしたら、2日ほど家を出ないこともある」と明かした。

 俳優生活約40年。名実ともに名優だが「音楽から入ってきて、誰にも負けない何かを持っているという自信がない。仕事がなくなったら“俺は勉強してないから仕事がこないのか”“芝居が下手だからだろう”と考えだす」と不安をのぞかせる。一方で、客観的な視点で「自信の源がない状態が、かえっていいのかもしれない」と分析。自信のなさから生まれるミステリアスな雰囲気が、変幻自在な役で魅了する理由といえそうだ。

 ◆岸部 一徳(きしべ・いっとく)1947年(昭22)1月9日、京都市生まれの69歳。ザ・タイガースとして67年に「僕のマリー」でデビュー。解散後はドラマ「太陽にほえろ!」のメインテーマのベースなども担当。75年にドラマ「悪魔のようなあいつ」に出演し俳優に転身。09年「大阪ハムレット」では、毎日映画コンクール男優助演賞などを受賞。TBS「99・9―刑事専門弁護士―」(日曜後9・00)に出演中。1男2女がおり、長男の大輔もベーシスト、俳優として活動。 

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