春が来た…東北・仙台の地で今江“楽天桜”が見事に咲いた!

[ 2024年4月2日 14:49 ]

<楽・西3>延長11回、サヨナラ左犠飛を放った小深田を迎える今江監督(撮影・会津 智海)
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 【君島圭介のスポーツと人間】

 あの笑顔を見て思った。

 きっと東北のファンの心を鷲づかみしたな、と。 

 開幕2連敗で迎えた3戦目。3月31日の西武戦3―3で迎えた延長11回1死一、三塁。小深田が左飛を放った瞬間、選手やコーチ陣と一緒にベンチから飛び出さんばかりに身を乗り出して「いけーーー!」と叫んでいた。その姿は12球団最年少監督らしいエネルギーに溢れていた。

 タッチアップには少し浅いと思われた打球だったが、自ら信じて抜てきした辰見が絶妙なスタートと俊足、ヘッドスライディングで生還。サヨナラ勝利の瞬間、楽天・今江敏晃新監督(40)監督に弾けるような笑顔が浮かんだ。

 笑顔は球場を訪れたスタンドのファンにも向けられた。

 その後はカメラマンに求められるがまま「1勝ポーズ」で記念撮影。まるで高卒1年目投手の初勝利のように初々しく、微笑ましかった。

 そして、思った。ああ、東北のファンはこれから今江監督の笑顔が見たくて球場に通うことになるぞ、と。それは春の訪れに似たうれしい予感だった。

 前任の石井一久監督が悪いわけではない。楽天を恒常的な強豪球団にすべくゼネラルマネジャーとしても尽力してくれた。ただ、仙台に球団が生まれてようやく20年。まだ東北のファンの方に準備が出来てなかった。

 私の故郷・福島在住の知人、大の楽天ファンである彼女は「せっかく仙台まで観にいっても疲れてしまって…」と、嘆いた。車に乗って時間と安くない高速代を使った上に疲れるだけなら今季はもう観戦をやめると言うのだ。

 彼女はこぼした。「勝てなくてもいいんだけど…」

 その言葉で、2014年2月のソチ五輪を思い出した。

 金メダル獲得が宿命であるかのように追い込まれた浅田真央はSPで不本意な結果に終わった。私自身も含め、日本中が落胆している中、たまたま聞いたラジオから流れたリスナーの応援メッセージが心に響いた。

 「私は金メダルが見たいんじゃない。真央ちゃんの笑顔が見たいんです」

 結果は6位でもフリー演技は、見る者すべての心を動かした。そして、浅田は涙が溢れて止まらない最高の笑顔を見せてくれた。世界を明るく照らしてくれる美しい笑顔だった。

 3月最後の日曜日。久しぶりにいい笑顔を見た。

 あの東日本大震災を経験した東北の楽天ファンが求めていたのは一緒に笑って、泣いて、悔しがってくれる今江監督のような共感性の高い存在だったのではないだろうか。

 楽天の試合観戦をやめると言った知人に私は、今江監督が現役時代から、小児がん患者を支援するNPO法人の理事を夫婦で務め、シーズンオフには千葉県の病院を慰問していること。震災の後には福島県いわき市で「今江スマイルプロジェクト」という復興支援事業を行っていることを伝えた。

 そして、こう付け加えた。「笑顔が最高に素敵な男ですから…」。

 東北ではおそらく一番早い福島県いわき市のソメイヨシノの「開花宣言」が4月1日、地元有志によって行われたという。

 初勝利には3試合かかったが、それでも桜前線より一日早く、今江監督の笑顔は見事に咲いた。(専門委員)

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