【内田雅也の追球】阪神・藤浪、癖を逆手に 自らを救った連続牽制球

[ 2016年8月25日 09:15 ]

<D・神>初回無死一塁、一塁走者・桑原は二盗を狙うもタッチアウト。右は北條

セ・リーグ 阪神5―1DeNA

(8月24日 横浜)
 セットポジションに入った阪神・藤浪晋太郎は走者を警戒していた。3回裏1死、一塁に今季16盗塁、俊足の桑原将志がいた。打者・石川雄洋1ボール1ストライクとなって牽制(けんせい)球を入れた。

 この時の桑原の所作に阪神ベンチは「走ってくる」と直感したそうだ。「あの走者(桑原)は動きに出る」とヘッドコーチ・高代延博が言う。捕手・坂本誠志郎を通じ、もう1球、牽制球を投げるよう指示(サイン)を出した。再びセットし、速いターンでけん制を放った。逆を突かれた桑原は憤死となった。

 恐らく桑原は2球続けて牽制が来るとは思っていなかっただろう。藤浪は元もと牽制の少ない投手だ。今月過去3試合の登板では計5球だけ。珍しい連続牽制球だった。

 もう一つ。定かではないが、癖を矯正し、逆手に取った節もある。桑原は打者への投球だと読み取り、重心を右足にかけたのかもしれない。

 牽制球と投球の違い、球種(変化球なら走りやすい)など癖が出れば、相手は必ず突いてくる。最近は足でかき回されて崩れていくパターンが目立っていた。特に前回登板の17日広島戦(京セラ)では3盗塁を許し、逆転負けを食っていた。「ブルペンでいろいろやっていたようだ。課題を解消しようとしていたね」。高代は中6日の間の努力をみていた。

 工夫の一つが「ボールを長く持っていた」。これまでセットして2~3秒で始動していたが、4~5秒の長い静止で走者を焦らした。スタートを遅らせ、または止まらせることができる。同じテンポで投げるのではなく、ずらすのである。

 1回裏も先頭桑原に安打されたが、二盗を刺している。この時は牽制球は投げていない。一塁へ偽投の後、投手板外しで視線をやっていた。

 「詩人は野球の投手のごとし」とピュリツァー賞を4度も受賞した米詩人、ロバート・フロスト(1874―1963年)が語っている。「詩人も投手も、それぞれの間(ま)(モーメント)を持つ。この間(インターバル)こそが手ごわいのだ」。手ごわいとは打者が打ちづらいという意味に加え、投手自らが乱れてしまうという意味もあろう。この夜の藤浪はこの間を支配したと言える。

 味方に2点を先制してもらった直後、大事な回だった。ピンチの芽を摘み取り、自らを救う牽制刺だった。 =敬称略=
 (スポニチ本紙編集委員)

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