【二宮清純の唯我独論】スポーツ界に"クマ禍" 駅伝を次代へつなぐ道は

[ 2025年12月4日 10:41 ]

現役時代の浅利純子さん(1993年撮影)
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 「朝、家のドアを開けるのが怖いです。玄関を出て、車に乗るまでの間も怖い。いつクマに襲われるかわかりませんから…」

 切実な声で、そう語るのは秋田県鹿角市に住む浅利純子さん。1993年世界陸上ドイツ・シュツットガルト大会女子マラソンの金メダリストだ。

 「私が子どもの頃、クマが里にやって来ることは、ほとんどなかった。ところがここ最近、特に今年に入ってからは目撃情報が相次いでいます。私自身、子どもを学校に送る途中、車の前をクマに横切られ、血の気が引きました」

 全国各地でクマによる人身被害が相次いでいる。2025年の被害者数は197人、うち死亡者数は12人(4~10月、環境省発表)。東洋経済オンライン(25年11月1日)によると、出没件数(4~8月)が多いのは岩手県(3453件)、秋田県(3089件)、次いで青森県(1384件)。北東北3県の深刻さが浮かび上がる。

 その北東北3県の小中学生を対象に鹿角市と市の教育委員会は毎年7月に「浅利純子杯争奪鹿角駅伝」を開催している。浅利さんによると「今年は男女合わせて66チーム、約400人」が参加した。

 クマの出没情報が相次ぐ中、主催者は安全確保のため万全を期した。「クマは大きな音に弱いというので、山では爆竹を鳴らしました。また補助員には熊鈴を付けてもらい、身を守ってもらうと同時に、子どもたちにいち早く危険を知らせる役目も担ってもらいました」と浅利さん。その甲斐(かい)あって無事終了することができたが、「来年も同じ場所でできるかどうかはわからない。来年はコースを(クマの出没情報が少ない)市街地に変えるかもしれません」と語っていた。

 既に実害も出ている。11月6日に秋田市内で行われた東北高校駅伝では、選手がクマと遭遇する恐れがあるとして学法石川高(福島)などが出場を辞退した。大会は当初、公園を周回するコースを予定していたが、クマとの遭遇を避けるため、トラックレースに変更された。

 子どもたちの運動不足を懸念する声も出ている。鹿角市では、クマの出没情報が流れると、子どもたちの安全確保を最優先し、屋外での部活は取りやめになる。外遊びや野外活動を禁じている学校もある。

 コロナ禍、「スポーツを止めるな」という運動が全国的に起きたのは記憶に新しい。感染を拡大しないための練習や大会のあり方が模索された。

 だが、災害級とも言える今回の“クマ禍”に対しては、打つ手がないのが実情だ。北米では屋外競技にクマよけのベアドッグを利用しているケースもあると聞く。今後の検討課題だろう。「最近になって少しクマの目撃情報が減ってきた。でも中には冬眠しないクマもいるらしいから安心はできない。来年以降も続く問題ですから…」と浅利さん。クマ対策は長期戦の様相を呈している。(スポーツライター)

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