【ラグビーW杯】山中亮平　緊急招集“金狼”荒波乗り越え2度目大舞台　子供たちから直筆エール

[ 2023年9月26日 05:00 ]

ラグビーW杯1次リーグ

　日本代表の家族、きょうだいを随時連載で特集する「One　Family」。第4回は、1次リーグ第2戦の後に追加招集された山中亮平（35＝神戸）の妻、瑠美佳さん（34）を取り上げる。幼なじみの関係から12年に結婚し、11年が経過。2年間の出場停止処分など苦難を乗り越えて自身2度目の大舞台に臨む夫へ、子供たちとともに本紙を通じてエールを送った。（取材・構成　西海　康平）

　バーバリアンズで戦っていた山中だけでなく、神戸にいた妻・瑠美佳さんにも追加招集の知らせが届いた。8月15日に発表されたW杯メンバーからは漏れながら、WTBマシレワの負傷離脱によって今月18日、急きょ日本代表入りが決定。英国からフランスへ向かった夫に対して、本紙を通じてメッセージを送った。

　「追加招集をされたと聞いて、すぐに実感が湧かず、不安と喜びの半々でした。試合に出られたら、いつも通り楽しくラグビーをしてね。いつもみたいに家族でパワーを送ります」

　小学校時代、2人は同じスイミングスクールに通っていた。学校は別々でも、実家は近く、本人や親同士で仲が良かった。その後、しばらく連絡を取り合うことはなかったが、大学生になって再会。自然と距離は縮まり、付き合うようになった。

　だが、交際中に試練が訪れる。11年8月、山中は同年4月の日本代表候補の強化合宿中に抜き打ち検査で禁止薬物のステロイド成分に陽性反応を示したことから、2年間の資格停止処分となった。口ひげを伸ばすために使った塗り薬に、禁止成分が含まれていた。

　当時、瑠美佳さんは普段と変わらず接していた。山中も、彼女の前では気丈に振る舞っていた。だが、今年の4月。「落ち込んでる姿はあんまり見せない」という2人の会話をきっかけに、自宅に保管してあった、謹慎中に山中が書いていた日記を見ようとなった。存在は知っていても、瑠美佳さんが中身を見るのは初めてだった。

　文章は毎日、3行程度。だが、3冊のノートには衝撃的な言葉ばかりが並んでいた。「これからの人生が見えない」――。資格停止処分となった行為に対する後悔、同期が活躍していく焦り…。読んでいた瑠美佳さんの目には涙があふれた。

　「彼は日記にネガティブな感情をぶつけていた。あの時、私は気持ちを分かってあげられていなかったんだなと。めちゃくちゃ苦しんでいたことを知って、私自身も、今回のW杯に対する気持ちが強くなった」

　12年に結婚。今では長男・凛太郎くん（10）、長女・莉瑠菜ちゃん（8）、次男・琉之介くん（6）の子供3人と5人で暮らす。これまで幾度となく追加招集され、ある日の朝には、スーパーラグビーのサンウルブズから緊急の連絡があり「夕方に東京を出発する飛行機に乗ってアルゼンチンに来てください」と告げられた。家族との予定は突如キャンセル。泣きじゃくる子供を後に、地球の裏側に向かったこともあった。

　平たんな道のりではなかったが、自身2度目となるW杯の舞台にたどり着いた。追加招集を受け、家族も現地で観戦する予定。瑠美佳さんは「いつも通り」にプレーしてくれることに加え、パパが大好きな子供たちに雄姿を見せてほしいと願っている。

　「子供たちからすれば、やっぱりトライ＝活躍で、神戸でトライをした時も、スタンドで“パパやぞ”ってアピールしたそうにしている（笑い）。トライを取るところを見たいですね」

　離脱したマシレワはもちろん、家族、そして日本中の思いを受け、山中がラグビー人生の全てをぶつける。

　◇山中　亮平（やまなか・りょうへい）1988年（昭63）6月22日生まれ、大阪府出身の35歳。真住中2年から競技を始め、東海大仰星高（現東海大大阪仰星高）、早大を経て11年に神戸製鋼（現神戸）入り。代表歴はU20日本代表、高校日本代表。10年5月8日のアラビアンガルフ戦で初キャップ。19年W杯日本代表。日本代表キャップ29。1メートル88、98キロ。