【ラグビーW杯】明日なき戦いでも闘争本能を前面に 日本の次戦相手 サモアの神髄

[ 2023年9月26日 19:17 ]

<アルゼンチン・サモア>後半、トライを決めて吠えるマロロ(撮影・篠原岳夫)
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 W杯に凡戦なし。格言を盲信するつもりはないのだが、ラストプレーまでハラハラドキドキ、終盤は思わず声を上げてしまった試合がある。23日に行われたジョージア―ポルトガル戦だ。

 当日は日付をまたいでイングランド―チリ戦、南アフリカ―アイルランド戦という3試合が連なる長丁場。特に24日午前4時開始の前回王者VS世界ランキング1位の一戦は、1次リーグの天王山だった。両者の対戦が次に実現するのは決勝のみ(と言いたいところだが、3位決定戦で対戦する可能性もあり)。事実上の決勝とも言われた頂上決戦はアイルランドが僅差で制したが、W杯史上3度目となる、1次リーグ同組同士による決勝が実現するかも知れない。そんな予感が高まる80分間だった。

 話が逸れたが、ジョージア―ポルトガル戦はメインイベント、セミメインを前にした前座試合のつもりでキックオフを迎えた。ところがポルトガルの戦いぶりが熱かった。FW戦を得意とする相手に対し、とにかくボールを回す。2トライを取ったWTBストルティのような、素晴らしいランナーもいる。後半には一時リードを奪い、同25分ごろにはジョージアの金城湯池と言えるスクラムでペナルティーを奪うイケイケ状態。番狂わせもあるぞ、と思わせたが、無駄なペナルティーからトライを奪われ同点に。そしてラストワンプレー。逆に敵陣でペナルティーを奪い、メインキッカーではないFBゲデスの右足に同国のW杯史上初勝利が託されたが、その弾道は惜しくもポールの左側をかすめて外れた。呆然と立ち尽くす15番を、頭一つ分大きな7番のマルティンスが優しく抱き留めるシーンは胸アツだった。

 今大会が07年以来16年、4大会ぶりの出場となったポルトガル。代表選手33人の中に、07年大会に出場していた選手は1人もおらず(ただし親子代表はいる)、全員が初出場だ。それでも国の威信を背負った戦いぶりは、決勝トーナメント一番乗りを決めたウェールズに8―28と善戦した初戦も同じだった。振り返れば21年11月の対戦で、日本も38―25と苦戦を強いられている。W杯では決勝トーナメント進出争いには無関係だろうと予想する試合でも、時として胸を熱くしてくれるチームと出合える。

 日本が28日(日本時間29日)に対戦するサモアも、そんなチームだ。

 W杯では実に、3大会連続で同組となったサモア。代表資格の変更でSOリアリーファノ、No・8ルアトゥアら強豪国の元代表が加わったことに加え、22年からはモアナ・パシフィカとしてトンガとの混成でスーパーラグビーに参戦。4年前よりも個と組織、土台の面でも確実に強化が図られている。22日のアルゼンチン戦も10―19と接戦を演じた。

 しかし根底にある威信や闘争本能は、組織として脆弱で、W杯にもわずか数週間の事前キャンプで臨んでいた8年前も変わらなかった。そう感じた試合が、15年W杯のサモア―スコットランド戦だった。

 試合前の状況はこうだ。日本は南アフリカとサモアに勝ち、スコットランドに敗れて2勝1敗。いずれの試合もボーナスポイントを獲得できず、総勝ち点8で翌日に米国戦を控えていた。スコットランドも2勝1敗だが、総勝ち点は10。サモアは1勝2敗、総勝ち点が4。サモアの1次リーグ敗退はすでに決まっており、スコットランドは勝ち点3以上を獲得すれば、決勝トーナメント進出が決まる状況だった。

 日本は自力での決勝トーナメント進出の可能性がなく、まさに固唾(かたず)をのんで見守るしかなかった。しかしサモアにとっては明日なき戦い。どれほどのモチベーションを持って、W杯最後の一戦に臨むのだろうか。期待薄の気持ちを抱え、日本が前日練習を終えたグロスターのスタジアムの脇に建てられた仮設プレスルームの2階で、他の日本人記者らと試合開始を迎えたのを記憶している。

 ところが淡い期待はどんどん膨らむことになる。5万人超で埋まったスタジアムの四周をほぼ自国サポーターに囲まれたスコットランドは動きが重く、一方のサモアははつらつと、自慢のフィジカルで体を当て続けた。前半を26―23とリードして折り返し。だが後半は老かいな試合運びの相手のペースとなる。憎き(褒め言葉です)レイドローにPGを重ねられ、後半13分に勝ち越しを許す。同34分にはスクラムサイドを突いた9番にトライを奪われ、10点差に。その瞬間、期待はすっかりしぼんだ。

 しかしサモアは諦めなかった。たとえ数分後には彼らのW杯が終わると分かっていても、国の威信、自分や家族のために戦い続けた。38分にパワープレーで1トライを返すと、プレスルームはやんややんやの大歓声となった。ふと気づくと、下のフロアからも絶叫が聞こえる。会見場となっていた1階は主に日本のテレビ局関係者が集結。薄いプレハブの床からも、彼らの興奮が伝わってきた。

 スコットランドはのっそりとした動きで時間を消費し、リスタートのキックオフが蹴られたのは残り1分20秒を切ってから。レシーブした途中出場のNo・8ツイランギ(イングランドのCTBツイランギの兄)が1人また1人と邪魔する者をなぎ倒して前進。その2フェーズ後、ノックオンボールを相手に拾われ万事休す。熟練のボールキープに45秒間付き合わされ、サモアのW杯は幕を下ろした。しばらくは片膝を付いて顔を覆い隠す選手の姿は、いつ何時も全力で勝利を目指す闘争本能があればこそだった。

 サモアに日本の援護射撃のために戦う意思は微塵もなかっただろう。それでもいつの間にか引き込まれ、感情移入させられる。それがサモアの神髄ではないだろうか。日本が次に戦う相手は、そんなチームである。(記者コラム・阿部 令)

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