張本智和 台上バックドライブで頂点狙い撃つ!唯一無二の技術

[ 2021年7月20日 05:30 ]

台上バックハンドドライブを武器にメダルを狙う張本
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 【メダル候補の心技体】東京五輪の卓球シングルス、団体代表の張本智和(18=木下グループ)は、世界が恐れる“早撃ちガンマン”のごとき早い打点のバックハンドを持っている。威力、タイミング、コントロールの三拍子がそろった「台上バックハンドドライブ」で、完全無欠の世界王者、馬龍(マリュウ)(32=中国)をきりきり舞いさせた。メダル獲得を狙う日本の新エースの傑出した技術に迫る。

 張本のバックハンドの強打は世界最速と言われる。打つタイミングがとにかく早い。台の近くに立つ「前陣」でバウンド直後にとらえるため、相手が反応しきれないのだ。

 19年12月の男子W杯準決勝が鮮やかだった。16年リオデジャネイロ五輪シングルス金メダリストで、15、17、19年の世界選手権を制した馬龍(中国)を4―2で倒した一戦だ。

 ゲームカウント3―2で迎えた第6ゲーム、2―2。相手のサーブをバックでクロスに返球。戻ってきたボールの上がり際を再びバックでとらえ、今度はストレートへ打ち抜いた。中国の英雄に触れさせず、決まった。この一戦、同じようなバックのノータッチの得点が何度もあった。“精密機械”と呼ばれる世界王者でも、張本の早いバックを追い切れなかった。

 相手が打ってから返ってくるまでの時間が、0秒2前後とも言われる。台から離れればまだ反応しやすい。しかし、張本は「前陣」で強烈なスピンがかかった高速の球をバウンド直後に強く振ってとらえ、15.25センチのネットの向こうにある縦137センチ、横152.5センチの狭いスペースに、前進回転をかけて返す。ずばぬけた反射神経、卓越した手先の感覚、コースの読みがなければできない、超人技だ。

 「バック対バックの練習で、ストレートに打とうとしたら打点を早くしないと打てない。そこで、普通にできるようになったと思います」

 18歳のエースは事もなげに言うが、中国の卓球選手だった両親のもと、幼少時から英才教育を受けたことが、早撃ちの「台上バックハンドドライブ」の土台になったようだ。男子日本代表の倉嶋洋介監督(45)は世界を見渡しても唯一無二の技術だと称える。

 「早くて、威力もあって、どの方向にも打てるのは、張本ぐらい。あの打点の早さは、反応できない」

 この馬龍戦の8カ月前、19年4月の世界選手権は、右手薬指痛もあって、4回戦で世界ランキング157位の韓国選手に敗れた。試合後、倉嶋監督から「馬龍を目指せ」と励まされた。バックハンド一辺倒ではなく、総合力に優れた選手になれ、という激励だった。

 心に響いた。フォアハンド、レシーブも磨けば、「自分にはバックハンドがある。(馬龍よりも)もっと強い選手になれる」と、イメージができた。全体の底上げができた結果、武器のバックが生き、19年12月の勝利につながった。馬龍には、20年11月の男子W杯準決勝でもフルゲームの接戦を演じた。敗れたものの、五輪のシングルス、団体戦のメダルの前に立ちふさがる難敵の一人と互角に戦える自信をつかんだ。

 21年に入り、得意のバックハンドをさらに鍛え上げた。「限界が上がった気がする。今までと比べれば120%ぐらいの力があると思う。2年前まではこれ以上バックハンドが良くならないと思っていたが、もっと良くなった」。横回転気味にとらえて鋭く曲がるバックハンドの攻撃的レシーブ「チキータ」にも定評がある。右手の握力57キロは、日本代表No.1の数値で、強打を支えている。バックで世界を獲る。

 ≪世界ランク1位からも白星≫張本は馬龍から18年ジャパンオープンで初勝利を挙げ、1年後の男子W杯でも勝利した。中国のトップ選手は男女ともに対応力が極めて高く、さらに代表チームとして徹底的に分析をしてくるため、2回勝つのは容易ではない。張本の対馬龍通算2勝4敗は、かなり優秀な成績だ。現在世界ランキング1位の樊振東(ハンシントウ)には通算1勝4敗と食らいついている。丹羽、水谷が大きく負け越しているだけに、18歳にかかる期待は大きい。中国は、五輪の男子シングルスと団体で3連覇中。日本の新エースが王国の牙城を崩すか。

 ≪靴間違え大慌て≫18歳が五輪の洗礼を浴びた!?男女日本代表は19日に五輪会場の東京体育館で初練習に臨んだが、男子の倉嶋洋介監督によると、会場移動前に拠点の味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)で集合した際、張本は白の革靴を履いていたという。選手団には日本オリンピック委員会(JOC)からさまざまな物品が支給されるが、張本が履いていた革靴は開会式などの式典用。倉嶋監督が「それじゃないよ」と指摘すると、慌ててオレンジの外出用運動シューズを取りに戻ったという。初々しいミスにめげず、怪物が本番へ仕上げていく。

 ◆張本 智和(はりもと・ともかず)2003年(平15)6月27日生まれ、仙台市出身の18歳。2歳から仙台ジュニアクラブで競技を始める。JOCの育成機関「エリートアカデミー」入学のために中学で上京。現在は日大高3年で、木下グループ所属。16年世界ジュニア選手権で男子シングルスを13歳163日の最年少で優勝。18年ワールドツアー・グランドファイナルを制すなど、国際大会通算5勝。日本選手権優勝1回。父は元選手でコーチの宇さん、母は95年の世界選手権で中国代表になった凌さん。14年春に日本国籍を取得し、張姓から張本姓へ。妹・美和はTリーグ神奈川でプレー。プロ野球・楽天の大ファン。身長1メートル76。右シェークドライブ型。

≪羽生に続き東北明るく≫東京五輪は東日本大震災からの復興をテーマに掲げている。特に被害の大きかった岩手、宮城、福島の東北3県出身の選手は23人。ほかにも復興支援活動に携わるなど、積極的に関わりを持ってきた選手も多い。

 震災発生後に開催された五輪では、3県出身選手の活躍が強い印象を残してきた。12年ロンドン大会では、宮城からフェンシングのフルーレ男子団体の千田健太と淡路卓、卓球女子団体の福原愛がそれぞれ銀メダル(福原は16年リオデジャネイロ大会も銅)、バレーボール女子の大友愛が銅メダルを獲得。岩手からは、サッカー女子の岩清水梓が前年のW杯優勝に続いて銀メダルに輝いた。晴れの場では多くの選手が、それぞれの故郷への思いを口にしてきた。

 夏季大会では震災後3県から金メダリストは出ていないが、冬季大会では張本と同じ仙台市出身の羽生結弦が14年ソチ大会、18年平昌大会のフィギュアスケート男子を連覇している。羽生と同じように復興への強い思いを抱く張本が、先輩に続いて故郷に明るい話題を届けたい

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