追悼連載~「コービー激動の41年」その48 宿敵スパーズとの再戦
2004年のプレーオフ1回戦(対ロケッツ)でフィル・ジャクソン監督の起用法をめぐって不満を爆発させたゲイリー・ペイトンはスーパーソニックスに入団した1990年シーズンの新人時代、あのマイケル・ジョーダン(ブルズ)にトラッシュトーク(挑発的な物言い)を仕掛けた選手でもある。しかし年輪を重ねても心の中に大人になりきれていない部分があった。
そしてジャクソンがNBAの監督として能力があった思わせる側面がここにある。コービー・ブライアントであれ、ペイトンであれ、彼はある程度の“暴走”は認めている。ただ限界を超えたと判断すると、彼らを巧みに連れ戻してくる。ブライアントには成功した半面、失敗してしまったケースもあったが、ジョーダンはそれを「マインドゲーム」と呼び、ジャクソンがこの部分で他の指揮官より秀でていることを述懐している。
「ビデオでチェックしたら君はミスをしていなかった。私のミスだ。公平ではなかった。すまない」。これがペイトンを連れ戻すための第1声。こんな風に声を掛けられればどんな悪童たちも柵を乗り越えて帰ってこなくてはいけないだろう。そして戻ってきたところで核心となる言葉を発していく。「なあゲイリー、個人的な感情でチームの雰囲気を壊してはいけないんだ。君は監督じゃない。だから監督のような考え方はだめだ。私は心理的にチームに何がベストなのかを常に考えている。だから君も選手として正しい態度で自分の仕事をしてくれ」。
ペイトンは頭を下げている。「つい怒ってしまいました。やってしまったことは謝罪します。私はベストを尽くしたい」。こう言われたジャクソン監督はこの時点でペイトンとは和解している。「彼の責任感がうれしかった」。チームにあった亀裂はこれで修復されるかに見えた。
だが連勝したのにレイカーズはぎくしゃくしていた。ジャクソンを次に悩ませたのはシャキール・オニールのフリースロー。ロケッツとの第2戦を終えて17本中12本も失敗して成功率は29・4%。日本でも多くの草バスケ選手が「オレの方が上だ」と胸を張るだろう。(私もその1人だ)。そして敵地ヒューストンでの第3戦は91―102で敗れた。
オニールはバスケでは基本となるスクリーン・プレーでのディフェンスが不得手。いつも後ろに下がって、結局ドリブラーと1対1になってしまうケースが多かった。これはブライアントも抱えていたオニールへの“不満の中核”でもあった。ジャクソンは散々「引いてはいけない」と指示したが暖簾に腕押し。のちにブライアントはオニールがヒートに移籍して敵同士となった際、「シャックと1対1になると、最終的にはいつも自分を反則で止めるしかなかったのでフリースローばかり打っていた」と何度もこの弱点を意識的についている。
それでもレイカーズは4勝1敗で西地区1回戦を突破。崩れそうで崩れず、壊れそうで壊れないまま準決勝に駒を進めた。相手は前年の準決勝で2勝4敗と敗れ、ファイナル4連覇の夢を絶たれた憎きスパーズ。リベンジの舞台は整った。指揮官の言うことを聞かない背番号8の若者、そのエースと犬猿の仲にあるフリースローの下手なセンター、そして文句ばかり言うベテランを引き連れて“ジャクソン丸”は完ぺきなチームワークを誇る優勝候補にぶつかっていった。
西地区準決勝で顔を合わせたのは、前年の準決勝で2勝4敗と敗れ、ファイナル4連覇の夢を絶たれたスパーズ。長年にわたって“ビッグ3”として君臨することになるティム・ダンカンは28歳でマヌー・ジノビリは26歳、トニー・パーカーはまだ3シーズン目の21歳だった。57勝25敗は西地区ミッドウエストで首位ティンバーウルブスに1ゲーム差の2位。ただし後半はティンバーウルブスよりも好調で、レギュラーシーズンを11連勝で締めくくっていた。「提督」ことデビッド・ロビンソンが引退して迎えた最初のシーズン。当初は戦力面での不備を指摘されていたが、いつのまにか新しいチームに生まれ変わり、弱点は消え去っていた。
それでもジャクソンは前年と違って手応えを感じていた。新たに加わったカール・マローンがダンカン、ゲイリー・ペイトンがパーカーをある程度、抑えこむだろうという目算があったのだ。しかもその状態でチームにはブライアントとオニールの両エースがいる。勝算はあった。(敬称略・続く)
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には一昨年まで8年連続で出場。フルマラソンの自己ベストは2013年東京マラソンの4時間16分。昨年の北九州マラソンは4時間47分で完走。
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