果たせなかった五輪の夢追い…レスリングに殉じた栄勝さん

[ 2014年3月12日 08:05 ]

昨年6月、全日本選抜に優勝しトロフィーを持つ栄勝さんの隣でピースする吉田沙保里

吉田沙保里の父・栄勝(えいかつ)さん死去

 試合会場の片隅にある喫煙所で、栄勝さんは右手にたばこを持ち、いつもうまそうに煙を吐き出していた。青森なまりと早口で、何を話しているか分からなくなる時もあったが、伝わってくるのはレスリングに対する愛情と、愛娘を支える人に対する感謝の気持ちだった。

 全日本王者になりながら五輪出場の夢を果たせなかった思いを、私費で立ち上げた「一志ジュニア」で子供たちに託した。「子供だからって手を抜いちゃ駄目」。真剣に向き合う姿勢が子供だけでなく親にも人気だった。

 指導を受ける2人の兄に「お兄ちゃんたち、そんなこともできないの」と頬づえをつきながら話した吉田に「じゃ、おまえやってみろ」と誘ったのが無敵の世界女王の原点。泣きながらでも練習についてくる娘に情熱を注いだ。女子は五輪種目ではなく、海外遠征で自腹を切ることが多かった時代。幸代夫人に一日1000円で家族の食事を賄ってもらいながら、信念を貫いた。

 ロンドン五輪後、吉田が東京に拠点を移す話が報じられた際、幸代さんの前で「親に話す前に」と父として激怒したという。だが「栄監督に預けてるから」と指導者としての信義を守り、口を挟まなかった。最後までレスリングを愛し、殉じた人だった。

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2014年3月12日のニュース