吉田“薄氷”V11「怖かった。研究されているなぁと」

[ 2011年9月17日 06:00 ]

レスリングの世界選手権で9連覇を達成し、金メダルを手に喜ぶ女子55キロ級の吉田沙保里。左は女子63キロ級で優勝した伊調馨

レスリング世界選手権第4日 女子55キロ級

(9月15日 トルコ・イスタンブール)
 吉田が薄氷のV9を達成した。女子55キロ級決勝で吉田沙保里(28=ALSOK)がトーニャ・バービーク(カナダ)に大苦戦。死闘となった最終ピリオドを制し、五輪、世界選手権の世界大会の連続優勝記録を「11」に伸ばしたが、3連覇が懸かるロンドン五輪に課題を残す結果となった。同63キロ級では伊調馨(27=ALSOK)が鼻骨を骨折しながらも、2年連続7度目の優勝を飾り、世界大会は9度目の優勝となった。

 優勝が決まった直後に両手で顔を覆った。こぼれる涙は、歓喜のものではない。「負けるかと思ったし、怖かった~、という涙でした」。アレクサンドル・カレリン(ロシア)に並ぶ9連覇の偉業。世界大会11連続優勝、54連勝。無人の野を行くがごとき記録の数々より、この日の吉田は「今までで一番ヒヤッとした」と1つの勝ち星の味をかみしめていた。

 準決勝までは力の差を見せつけた。連続フォールで発進すると、続く2試合もピリオド中に大差がつくテクニカルフォールを記録。決勝で顔を合わせたのは、過去何度も対戦経験のあるバービークで「普通にやれば勝てる」と思ったという。ところが、ピリオドが始まってみると、様子が違う。「研究されているなあ、と。フェイントが効かなくて崩せなかった」

 第1ピリオドは先取したが、第2ピリオドは2―0とリードした後半にタックルをつぶされ、2点を奪われ逆転された。迎えた最終ピリオド。再び2―0とリードした終盤、同じようにタックルをつぶされ、体をひっくり返された。審判は無得点の判定だったが、カナダ側の抗議で2点が入った。通常、同点なら大きなポイントを稼いだ方が有利。残り時間は3秒。吉田が「負けた」と思ったのは当然だった。

 「ここで負けたらロンドンはない、と言い続けてきたんで」。タイムアップ直前に相手の懐に飛び込んだのは、逆転を信じてのもの。しかし、実は吉田の2点のうち1点は相手に対する警告。ルール上は警告のポイントが最優先で、同点でも吉田の勝ちに変わりはなかった。結局、最後の1ポイントも認められ、はっきりと決着をつけたが「いい勉強になった」のが本音だった。

 最終ピリオドまでもつれ込むのは07年の世界選手権3回戦以来、実に4年ぶり。さらに、同点の場合に抽選で攻守を決める現行のルールで、抽選を経験したこともない。圧倒的な強さが、思わぬ経験不足を生んでいた。「細かいルールのことも知らなかった。これからは何が起こるか分からないから、想定した練習をしておかないと。まあ、それでも負けなかったことが良かった」。女王の顔に浮かんだ危機感は、3連覇が懸かるロンドンへの“良薬”の苦みを感じているようだった。

 ≪栄監督は“油断”指摘≫吉田を指導する栄和人・女子監督は「決勝はちょっと動きが硬かったね。気合の入りすぎという感じだった」と苦笑い。今年に入り強化合宿には男子選手を投入するなど“刺激”も与えてきたが、思わぬ苦戦に「勝てるという気持ちがあったのかもしれない」と油断を指摘。それでも、連勝街道を走る愛弟子に「パーフェクトな勝ち方を続けるのは難しいよ」とフォローした。

 ◆吉田 沙保里(よしだ・さおり)1982年(昭57)10月5日、三重県生まれの28歳。中京女大(現至学館大)出、ALSOK所属。04年アテネ、08年北京両五輪で金メダル。01年から08年1月まで続いた連勝は119でストップしたが、その後も再び連勝中。昨年は世界選手権で8連覇、アジア大会で3連覇。1メートル57。

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