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【二宮清純の唯我独論】有事に問われるチームジャパンの「底力」

[ 2026年5月20日 06:00 ]

サッカー日本代表を率いる森保監督
Photo By スポニチ

 「回復の時期は未定。残りの試合に出ることは絶望的」。イタリア代表の広報担当が発した言葉が、事態の深刻さを物語っていた。

 1994年サッカーW杯米国大会。イタリアが誇るカテナチオの要であるフランコ・バレージ主将が右膝を痛めて交代を余儀なくされたのは、1次リーグ2戦目のノルウェー戦だった。会場はニューヨークのジャイアンツ・スタジアム。イタリアの行く手には暗雲が立ち込めていた。

 広報セクションから続報が届く。マンハッタンの病院で損傷した内側半月板の修復手術を受ける――。後日、手術の概略が明らかになる。それは関節鏡視下手術と呼ばれるもので、NFLニューヨーク・ジェッツのチームドクターであるエリオット・ハーシュマン博士が執刀した。

 どんな術式だったのか。膝関節外科、再生医療の世界的権威である越智光夫広島大学学長は「症状はバケツ柄半月板損傷に基づくものだったのではないか」と推測する。それは膝の半月板が大きくタテに裂け、避けた内側の部分がバケツの「持ち柄」のように関節のすき間にめり込んでしまう状態を指し、「膝の2カ所に穴を開け、関節鏡を使ってバケツの柄の部分を切除することで引っかかりを取り、動ける状態にしたのだろう」という。

 手術の中身もさることながら、もっと驚いたのは、チームイタリアの有事に際しての手際の良さだった。バレージが手術を受けるには、所属クラブのACミランの許諾を得なければならない。問題は、誰に治療を依頼するかだ。イタリアの宝を、無名の医師のメスに委ねることはできない。幸い、イタリア代表のチームドクターであるアンドレア・フェレッティ氏とニューヨーク・タイムズが選出する「スーパードクターズ」の常連でもあったハーシュマン氏は旧知の仲だった。

 医療の世界は人脈がモノを言う。かくして残り試合の出場が絶望視されていたバレージは、負傷から25日後、ブラジルとの決勝の舞台に戻ってきた。そこにチームイタリアの「底力」を見たのは、私ひとりではあるまい。

 灼熱(しゃくねつ)のローズボウル。バレージが両足にけいれんを起こし、カートでピッチの外に運び出されたのは延長後半だった。それでも彼は120分を戦い抜き、ブラジルにゴールを許さなかった。

 森保ジャパンが北中米W杯で「最高の景色」を見るためのビューポイントに到達するには、8試合を戦い抜かねばならない。道中、予期せぬ嵐に見舞われることも、一度ならずあるだろう。

 森保一監督は「想定外も想定内」という言葉をよく口にする。生き馬の目を抜くW杯において、平時の戦いはひとつもない。有事どころか惨事と呼びたくなる状況下でも、果断に戦いを進めなくてはならない。問われるのはメディカルも含めたチームジャパンの「底力」である。 (スポーツライター)

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