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チョウ貴裁さん復活の裏に、流経大中野監督の男気

[ 2020年10月27日 09:15 ]

チョウキジェ氏
Photo By スポニチ

 【大西純一の真相・深層】パワハラ疑惑が浮上して昨年10月に湘南の監督を退任したチョウ貴裁(チョウ・キジェ)さん(51)が優勝に王手をかけている。現在流経大のコーチを勤めているが、アミノバイタル杯の決勝に導き、11月3日に母校・早大と対戦する。勝てばこの大会初優勝、チョウさんにとっても復活への大きな第一歩となる。

 詳細は省略するが、パワハラ問題はもちろんチョウさんにも行き過ぎた振る舞いがあったことは間違いない。社会人としてしっかり反省する必要があるし、1年間かけて研修や講習会に通って自己研さんに努め、10月3日で資格停止が解除された。復活の道を後押ししたのは流経大の中野雄二監督だった。

 日本サッカー協会技術委員でもある中野監督は元々チョウさんと交流があったわけではなかった。会えばあいさつする程度だったが、「選手の能力をよく引き出す力がある。湘南時代、あの戦力でよく成績残していると思っていた」と指導者として評価していた。

 中野監督が疑問に思ったのは、日本サッカー協会理事会で処分内容だけが議論され、復帰の道はまったく議論されなかったことだ。「1年間の資格停止」という重い処分が課されたが、「処分を課すなら表裏一体で復帰の道も示さなければおかしい」と考えた。「ひとつの評価だけですべてを失っていいのか。人間は失敗して成長する。わたしは400回はクビになっている。失敗した数があっていまの中野になれたわけで、回りに感謝している」そこで日本サッカー協会などに問い合わせて「アマなら問題ない」と確認、大学の了解も取り付け、声をかけた。最初は「ピッチに立つのが怖い。大学に迷惑をかけるのでは」と尻込みしていたという。しかし中野監督は「人間は苦しいときに見せる姿が本当の姿。うちに来れば守ってあげられるし、堂々とJリーグに復帰させたい」と、すっかりほれこんだ。

 流経大は近年、大学サッカー界の強豪として知られていたが、昨年関東大学リーグで18年ぶりに2部に降格、自信を失いかけていた。「新しい流経大になった方がいい」と考えていたところにチョウさんがコーチに就任した。練習もメンバー決定もすべて任せた。2部で独走、流経大を復活させた。

 「短期間で選手の気持ちを引きつけ、“やろう”という気持ちを植え付けた。うちに来て何の問題もない」と中野監督は太鼓判を押す。ベルマーレでの一件については「信頼していたスタッフが辞めてバランスが崩れたのかも。引き上げるためにときには厳しく言うこともある。それをコーチがフォローしてバランスを取る。うちはちゃんとできている。チョウさんだけ悪者にするのはどうか」

 指導における“言い方”は対象によって変わる。子どもならシュートを外しても、「いいポジションを取っていたね」でいいが、大学生はトップアスリート。「それを外してどうする。流れが変わるぞ」と言うのが普通だという。過剰な気遣いは「人を弱くしている」と、中野監督は懸念する。自身もだらだら練習していた選手に「帰れ」と言って実際に帰らせたこともある。それをコーチがフォローするのがチームだという。「社会は個人を守ろうという方向に針が大きく動いている。プロの世界でもそういうの出てくるほどメンタル弱くなった」と中野監督は心配する。そして「社会で生きていくために、ここに来た選手を成長させて、財産を持たせてあげたい」という考えになったという。

 「うちは今年日本で1番強い。チョウさんのお陰で自信を失っていた選手が自信を取り戻して全盛期以上になった」と中野監督は胸を張る。主力は3年生で、来年はさらに強いという。「このまま監督をやってほしいが、同時にJに戻って優勝してほしい。チョウさんらしさを発揮して、Jで中心的な指導者になってほしい」とエールを送る。まずはアミノバイタルカップ決勝に全力を注ぐ。

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2020年10月27日のニュース