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仏記者が迫るハリル新監督、失望から喜びW杯敗戦後の英雄扱い

[ 2015年3月17日 08:19 ]

ブラジルW杯決勝トーナメントのドイツ戦で指示を出すアルジェリア代表のハリルホジッチ監督(右)

 2011年にアルジェリアに足を踏み入れた時、彼を待ち構えるチャレンジは巨大だった。コートジボワール代表監督時代の10年にアフリカ選手権準々決勝で敗れ、W杯南アフリカ大会を戦う夢を粉砕された相手。バイド(バヒドのフランス語読み)・ハリルホジッチはそのチームの指揮官として再びアフリカに戻り「歴史というのは皮肉なものだな」と漏らした。

 「コートジボワールと同じ仕事にはならないだろうな。タレントがひしめいているわけじゃないからね。まずは選手を発掘しなくちゃいけないし、全員をまとめるために戦術面を磨かなくては」

 W杯でダークホースと目されるほどのコートジボワールとは、土台となるチーム力が違う。そんな中でバイドは選手を呼び集めては合宿を繰り返した。フランスで年代別代表経験があるアルジェリアとの二重国籍選手の起用。国外組が大半を占め、ある合宿ではスタッフ10人に対して選手が2人ということもあった。

 13年アフリカ選手権では1次リーグ敗退。ここで地元メディアは猛然と彼に飛びかかった。バイドにとって嫌悪感を催す関係となっていた記者団はストレートに更迭を要求。首をとろうと望んだが、その同じ日、アルジェリア協会のルアラウア会長は私に「更迭はしない」と明言した。アフリカ選手権敗退で解任されたコートジボワール時代の悪夢再現は、指揮官擁護に回った協会トップの英断で回避。そして続投したバイドはパスワークが持ち味だったチームに勝つための守備とカウンターを徹底させ、14年W杯の切符をもぎ取った。

 13年11月19日、ブルキナファソとのアフリカ最終予選第2戦で終了の笛が鳴ると、彼は泣いていた。「エルヴェ、信じられないことが起きている!」。ルアラウア会長が彼を抱きしめ、キスしていた。警察官までピッチ上でバイドに記念撮影をねだってツーショット!ありえない光景だった。

 主将のDFブゲラは振り返る。「彼は僕らにディシプリン(規律)というものを植えつけることに成功したんだ」。バイドはタレント豊かとは言えないアルジェリアに規律と戦術をもたらし、見事に変貌させたのだ。

 W杯ブラジル大会でも1次リーグを突破した。だが、決勝トーナメント1回戦でドイツに敗れた瞬間、バイドの心は粉砕された。「私はねえ、6年分の仕事を3年でやったと思っているよ。大会に向けた準備は極めて高度だったんだ」。W杯4試合で全て異なる布陣を使い分け「奇術師」とも呼ばれたバイドは、世界王者になるドイツを敗退に追い込むことができると、延長戦の死闘で最後まで信じ続けたからだ。

 だが翌日、電話口の彼は熱狂的になっていた。「買い物に出たら、誰も彼もが私と写真を撮りたがるんだ!私たちが与えた幸福感は凄いものだったんだ!しかもブラジルでだよ!」。バイドは自分のした仕事とアルジェリア代表に付与したイメージに誇りを覚えた。たとえ彼の口中に「もう少しだった」という苦味が残っていたとしても。 (エルヴェ・プノ/レキップ紙、翻訳=結城真里通信員)

 ◆エルヴェ・プノ 1966年5月9日、フランス生まれの48歳。99年レキップ入社後にリヨン、マルセイユ、リールの番記者を務め、現在はパリSG担当。また00年から並行してアフリカ各国代表も担当し、コートジボワールやアルジェリアを率いたハリルホジッチ氏と深い親交を持つ。ドログバ自伝の共著者でもある。

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2015年3月17日のニュース