「鎌倉殿の13人」ネット号泣…2パターンあった「政子の大演説」舞台裏 熱演生んだ“ステージングの妙”

[ 2022年12月11日 20:45 ]

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第47話。ついに「政子の大演説」。集まった御家人たちを前に思いの丈を語る政子(小池栄子・中央)(C)NHK
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 俳優の小栗旬(39)が主演を務めるNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(日曜後8・00)は11日、第47回が放送され、ついに「北条政子の大演説」(1221年、承久3年)が描かれた。政子(小池栄子)は自らの言葉で御家人たちを鼓舞。弟・北条義時(小栗)の命も救った。SNS上には「神回」などと感涙の声が相次ぎ、大反響。同回を担当したチーフ演出・吉田照幸監督に撮影の舞台裏を聞いた。

 <※以下、ネタバレ有>

 稀代の喜劇作家にして群像劇の名手・三谷幸喜氏が脚本を手掛ける大河ドラマ61作目。タイトルの「鎌倉殿」とは、鎌倉幕府将軍のこと。主人公は鎌倉幕府2代執権・北条義時。鎌倉幕府初代将軍・源頼朝にすべてを学び、武士の世を盤石にした男。野心とは無縁だった若者は、いかにして武士の頂点に上り詰めたのか。三谷氏は2004年「新選組!」、16年「真田丸」に続く6年ぶり3作目の大河脚本。小栗は大河8作目にして初主演に挑んだ。

 第47回は「ある朝敵、ある演説」。鎌倉幕府の後継者争いが発端となり、乱れる京。朝廷の象徴・内裏が焼け落ちると、後鳥羽上皇(尾上松也)は再建費用を日本中の武士から徴収すると決める。しかし、北条義時(小栗)は政子(小池)と大江広元(栗原英雄)の支持もあり、要求を先送りに。北条泰時(坂口健太郎)をはじめ、御家人たちが朝廷との関係悪化に不安を覚える中、三浦義村(山本耕史)は大番役を務める弟・三浦胤義(岸田タツヤ)に後鳥羽上皇に取り入るよう指示し…という展開。

 後鳥羽上皇の狙いは義時の孤立。義時の妻・のえ(菊地凛子)の兄、京都守護・伊賀光季を討ち取るよう藤原秀康(星智也)に命じた。「これをもって、北条義時追討の狼煙(のろし)とする」――。「承久3年5月15日、京都守護が官軍に襲撃される」(語り・長澤まさみ)。そして、後鳥羽上皇の使者、押松こと平知康(矢柴俊博)が18年ぶりに鎌倉入り、義時追討の院宣を義村たちに届けた。

 院宣は8通。「これは、鎌倉に攻め込むためのものではない。私を追討せよという院宣だ」「私一人のために、鎌倉を灰にすることはできんということだ」――。義時は自分の命と引き換えに、鎌倉を守る覚悟を決め、御家人たちを招集した。

 御家人たちがあふれ返る鎌倉御所・寝殿。義時が話し始めると「待ちなさい」と政子が現れた。途中で大江広元(栗原英雄)に頼んだ演説文を読むのをやめ、自らの言葉を投げ掛けた。

 政子「わたくしが皆にこうして話をするのは、これが最初で最後です。源頼朝様が朝敵を討ち果たし、関東を治めてこのかた、その恩は山よりも高く、海よりも…(大江広元の原稿を実衣に手渡し)本当のことを申します。上皇様が狙っているのは鎌倉ではない。ここにいる、執権義時の首です。首さえ出しだせば兵を収めると院宣には書かれています。そして義時は、己の首を差し出そうとしました」

 義時「姉上、もういい」

 政子「よくありません。わたくしは今、尼将軍としてしゃべっているのです。口を挟むな。鎌倉が守られるのならば、命を捨てようとこの人は言った。あなたたちのために犠牲になろうと決めた。もちろんわたくしは反対しました。しかしその思いは変えられなかった。ここで皆さんに聞きたいの。あなた方は本当にそれでよいのですか。確かに、執権を憎む者が多いことはわたくしも知っています。彼はそれだけのことをしてきた。でもね、この人は生真面目なのです。すべてこの鎌倉を守るため。一度たりとも私欲に走ったことはありません」

 実衣「それは、わたくしも知っています」

 政子「鎌倉始まって以来の危機を前にして選ぶ道は2つ。ここで上皇様に従って、未来永劫、西の言いなりになるか。戦って坂東武者の世をつくるか。ならば答えは決まっています。速やかに、上皇様を惑わす奸賊どもを討ち果たし、3代にわたる源氏の遺跡(ゆいせき)を守り抜くのです。頼朝様の恩に今こそ応えるのです。向こうは、あなたたちが戦を避けるために執権の首を差し出すと思ってる。馬鹿にするな。そんな卑怯者は、この坂東には一人もいない!そのことを上皇様に教えてやりましょう!」

 御家人たち「おう!」

 政子「ただし敵は官軍。厳しい戦いになります。上皇様に付きたいという者があれば、止めることはしません」

 泰時「そのような者が、ここにいるはずがございません。今こそ、一致団結し、尼将軍をお守りし、執権殿の下、敵を討ち払う。ここにいる者たちは皆、その思いでいるはずです。違うか!執権殿、これが上皇様への我らの答えです」

 政子と目が合うと、鬼の義時も涙を堪え切れない。前回第46回「将軍になった女」(12月4日)の実衣(宮澤エマ)に続き、今度は政子が弟を救った。

 視聴者が期待してきた政子のクライマックスを演じるにあたり、小池からは「どう演じていいのか、分かりません」と相談。吉田監督は「小池さんが不安に思っているのは、これだけ長く演じてきたので、キャラクターがつかめないとか、台本の意図が分からないとか、もうそういうことじゃないんですよね。演説のシーンを演じる時に『自分がどういう気持ちになるのか、分かりません』ということだと思いました。だから『現場で台詞を口にしてみた時の感情を大切にしてください』と伝えました」とやり取りを明かした。

 演者の感情をどう高めるか。「演出の仕事は『こういうふうに演じてください』と言葉で説明するより、やっぱりステージングなんです」。今回は2パターンを準備した。

 鎌倉御所・寝殿。1つは(A)政子が庭にひしめく御家人たちの正面に立ち、義時は政子の横にいる、いわゆるシアター式の講演会スタイル。もう1つは(B)オンエアに使われた、政子の背後となる室内にも御家人たちがひしめき、義時は政子から離れて室内の奥にいる“客席が360度、舞台を取り囲む円形劇場スタイル”。

 「(A)だと義時が晒し者みたいになってしまいますし、そんな義時を横にして政子の感情がストレートに出るかな?と思っていましたが、両方試してみて、小池さんも(B)でいきたいと。(B)だと政子は前後左右に訴え掛けることになりますし、義時も誰の目も意識せず政子の言葉に耳を傾けられます。本番は、あらゆる御家人に政子の気持ちを一気にパーンと出してくれ、サブに(副調整室)いた僕もその場にいるようでした」

 最初に台本を読んだ時、浮かんだアイデアは(B)。カット割りも(B)でイメージしていた。「ただ、演じるには特殊で難しい形。役者がやりづらければ、何も意味はない。祈るような気持ちでしたが、小池さんが挑戦的な(B)を選んでくれて、とてもうれしかったです。結果、小栗さんや坂口さんも感情豊かに演じてくださいました。まさにこれがライブ!視聴者の方もその場で聞いてるような臨場感をお届けできると確信してます」と手応えを示した。

 次回、とうとう最終回「報いの時」(第48回、12月18日)。“最終決戦”「承久の乱」(1221年、承久3年)の合戦を迎える。

 ◇吉田 照幸(よしだ・てるゆき)1993年、NHK入局。広島放送局などを経て、2004年、ドラマ形式のコント番組「サラリーマンNEO」を企画・演出。シリーズ化・映画化の大ヒットとなった。朝ドラは13年前期「あまちゃん」で初演出、20年前期「エール」でチーフ演出・共同脚本を務めた。他の代表作はコント番組「となりのシムラ」「志村けん in 探偵佐平60歳」、ドラマ「獄門島」「悪魔が来りて笛を吹く」「八つ墓村」、映画「探偵はBARにいる3」など。大河ドラマに携わるのも時代劇も今回が初。

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