「鎌倉殿の13人」トウ・山本千尋 頼家・金子大地に刺激「斬れて光栄」善児の変化 三谷氏の愛ある課題

[ 2022年8月28日 20:45 ]

「鎌倉殿の13人」トウ役・山本千尋インタビュー(下)

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第33話。源頼家(金子大地)を斬るトウ(山本千尋)(C)NHK
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 俳優の小栗旬(39)が主演を務めるNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(日曜後8・00)は28日、第33回が放送され、俳優の梶原善(56)が“怪演”し、初回(1月9日)から視聴者を恐怖に陥れ続けた仕事人・善児、俳優の金子大地(25)が苛烈なまでの運命を体現した鎌倉幕府2代将軍・源頼家の壮絶な最期が描かれた。2人にトドメを刺したのは“2代目善児”トウ。復讐の炎を燃やした孤児(みなしご)役を演じる女優の山本千尋(25)に撮影の舞台裏を聞いた。

 <※以下、ネタバレ有>

 稀代の喜劇作家にして群像劇の名手・三谷幸喜氏が脚本を手掛ける大河ドラマ61作目。タイトルの「鎌倉殿」とは、鎌倉幕府将軍のこと。主人公は鎌倉幕府2代執権・北条義時。鎌倉幕府初代将軍・源頼朝にすべてを学び、武士の世を盤石にした男。野心とは無縁だった若者は、いかにして武士の頂点に上り詰めたのか。鎌倉を舞台に、御家人たちが激しいパワーゲームを繰り広げる。三谷氏は2004年「新選組!」、16年「真田丸」に続く6年ぶり3作目の大河脚本。小栗は8作目にして大河初主演に挑む。

 第33回は「修善寺」。政子(小池栄子)の次男・源実朝(嶺岸煌桜)を3代鎌倉殿とする新体制が始まり、北条時政(坂東彌十郎)が執権別当に就任。裏から時政を支える妻・りく(宮沢りえ)は実朝の正室を京から迎えることを進言し、娘婿・平賀朝雅(山中崇)を通じて後鳥羽上皇(尾上松也)に願い出る。しかし、御家人たちは派手に権力を振るう北条を敬遠。三浦義村(山本耕史)の忠告に、北条義時(小栗)も苦笑を浮かべる。一方、伊豆・修善寺へ追放された失意の源頼家(金子)は…という展開。

 頼家は「軍勢を率い、鎌倉を火の海にし、北条の者どもの首をはねる。このままここで朽ち果てるつもりはない」と執念。しかし、後鳥羽上皇に北条追討の院宣を願い出たことが書かれた扇を八田知家(市原隼人)が発見。謀反の証拠に、流石の義時も頼家討ちを決めざるを得なかった。

 修善寺。横笛を吹く猿楽衆の中に、1人だけ指の動かない男がいる。義時の命を受けた善児(梶原)だった。愛弟子・トウ(山本)も現れる。

 頼家と善児の一騎打ち。ついに善児が頼家を仕留めたと思われたその時、紙に書かれた「一幡」の文字が目に飛び込む。「わしを好いてくれている」(第32回「災いの種」、8月21日)――。あの時、頼家の長男・一幡(相澤壮太)を殺めるのをためらった善児に隙が生まれた瞬間、頼家の刀が善児を貫く。「わしはまだ死なん!」。頼家が善児にトドメを刺そうとした時、今度はトウの刀が頼家を背後から突き刺し、2代鎌倉殿は息絶えた。

 瀕死の善児をトウが襲う。「ずっとこの時を待っていた」「父の敵」「母の敵」――。善児は、修善寺に幽閉された源範頼(迫田孝也)と、範頼と野菜を作っていた少女トウ(高橋愛莉)の両親(五藤太とその妻)も手にかけた敵(第24回「変わらぬ人」、6月19日)。あれから約7年、同じ修善寺の地。師匠に“引導”を渡した。

 史書「吾妻鏡」には、元久元年(1204年)7月19日の記事に「酉の刻に伊豆国の飛脚が(鎌倉に)到着した。『昨日十八日に左金吾禅閤(源頼家)(年は二十三歳)が当国の修禅寺で亡くなられました』と申したという」(吉川弘文館「現代語訳 吾妻鏡」より)と短く記されるのみの頼家の最期。今作はオリジナルキャラクターの善児とトウを絡めた凄まじい幕切れとなった。

 山本は大河初出演。アサシン(暗殺者)・善児に育てられた孤児・トウ役を演じる。3歳から中国武術を習い、武術太極拳の「世界ジュニア武術選手権大会」で2度の金メダルを獲得した元世界女王。“新世代アクション女優”の呼び声も高い。

 初登場は第29回「ままならぬ玉」(7月31日)。義時らの度肝を抜く俊敏な動き、剣さばきを次々に披露した。「比企能員の変」を描いた第31回「諦めの悪い男」(8月14日)は能員(佐藤二朗)の娘で2代鎌倉殿・源頼家の側室・せつ(山谷花純)を瞬殺し、事もなげに初任務を完了。北条による比企滅亡に一役買った。

 第32回は二の足を踏む涙の善児に代わり「トウと水遊びいたしましょう」と一幡の手を引いて連れ出した。善児は手作りの“ブランコ”に一幡が乗ることはもうないと悟り、ブランコの縄を切った。

 ――源頼家役の金子大地さんとは、どのようなお話をされましたか?

 「金子さん、せつ役の山谷花純さんとは歳が同じなんです。撮影が終わって数カ月経ちますが、お二人の散り際が今でも鮮明に残っているほど、大きな影響を受けました。『魅せられた』という言葉が一番正しいかもしれません。金子さんが出演された作品をいくつか拝見させていただいたことがありまして、その時、凄く繊細なお芝居をされる素敵な俳優さんだなと思っていました。金子さんのように、普段の物腰柔らかい雰囲気と役に入ってカメラに映る姿がこんなにも違う方は初めてで。間違いなく、源頼家がそこにいるんですよね。金子さんの魅力は私なんかが言わずとも、視聴者の皆さまも十分お分かりだと思うのですが、思わずご本人に直接『凄いです』と心の声を漏らしてしまうほど、感化されました。お世辞かもしれませんが、金子さんに『僕を含めて事務所の同年代の役者たちは“山本さんのアクションを見習いなさい”と事務所の人に言われるんです」とおっしゃってくださり、その言葉があまりにもうれしくて、もっとアクション頑張ろうと思いました。そんな金子さん演じる源頼家を斬ることができて、光栄でした」

 ――第31回、善児は一幡を斬ることができず、涙。冷酷無比だった善児の変化については、どのように解釈されましたか?

 「少女だったトウが両親の仇を討つ日まで約7年の月日が流れていますが、成長後初登場した第29回から考えても、まだまだ大人というには総じて経験が足りないと思います。第31回の一幡とのシーンで、演出の吉田(照幸)さんから印象に残る言葉を頂きました。『言葉にも表情にも出さないけど、かつて自分が家族を奪われたように、一幡を殺して善児を同じ気持ちにさせてやると、どこかで思っていてください』と。善児は八重の息子・千鶴丸をためらいなく殺しました。その初回(1月9日)をテレビで見ていた私は、あまりの衝撃に一体何が起きたのか分からなくなりましたが、一幡を水遊びに連れていくシーンとどこか重なる部分があって色々と考えさせられました。善児に一幡に対する情が生まれたのは、トウと暮らしていく中で歳を取り、徐々に人間味が出てきたんだと思います。悲しくも、トウも善児と過ごしていくうちに恩義を感じる。でも、いつか仇を討つという想いを捨てたことは一度もない。『残酷ですよ!三谷さん!(笑)』となりましたが、愛ある課題ですよね」

 ――三谷さんとのやり取りは、何かございましたか?

 「三谷さんからは、手塚治虫さんの『火の鳥』(※1)を読んだことはありますか?と質問を頂いたことがありました。何かヒントになるかもとおっしゃっていた理由が、この期間を通して理解できたかと思います。そんな話を梶原さんにしたりもしましたが『なんだよー、オレ聞いてねぇよ!三谷さん!』と梶原さんのあっけらかんとした心の余裕に凄く救われましたし、どの役者さんの間に私のような年代の子を置くか、そんな部分も三谷さんの考えてくださっていたことなのかな、なんて思ったりもします。私の悩み癖を吹き飛ばしてくれるような梶原さんがお師匠で、金子さんや山谷さんたち同年代からの刺激に、義時・小栗さんに仕える意味…。この先もそんな三谷さんの思惑が垣間見える瞬間がたくさんあると思います。仇を討ったトウがどうなるのか。復讐の行く末。これからは私の今の年齢より上のトウを演じることにもなるので、そんなことも考えながら、まだまだ最後まで悩み続けて撮影を楽しみたいと思います」

 =おわり=

 【※1】“漫画の神様”手塚治虫がライフワークと位置付けた作品。その生き血を飲めば、永遠の命を手に入れられるという火の鳥。地球や宇宙、古代から未来を舞台に、この不死鳥をめぐる壮大なストーリーが展開され、生命や人間の本質を問う。

 ◇山本 千尋(やまもと・ちひろ)1996年(平8)8月29日生まれ、兵庫県出身。2008、12年に世界ジュニア武術選手権大会の槍術(そうじゅつ)で金メダル。10~12年にはJOCジュニアオリンピックカップの長拳、剣術、槍術の3種目で3連覇を果たした。15年、「ジャパンアクションアワード」のベストアクション女優優秀賞に輝いた。公開中の映画「キングダム2 遥かなる大地へ」(監督佐藤信介)に羌象(キョウショウ) 役で出演。

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