小田和正 8年ぶりニューアルバム 初夏の至福

[ 2022年6月15日 08:30 ]

小田和正のニューアルバム「early summer 2022」のジャケット
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 【牧 元一の孤人焦点】今、その歌声を聴いて感じるのは、温かさ、優しさ、深さだ。それは、40年以上前に初めて歌声を聴いた時の感じとは異なる。あの頃、強く胸を揺さぶられたからこそ、今こうして耳にしているのだが、現在は全く新しいものとして心に染みいってくる。至福の時だ。

 小田和正(74)のニューアルバム「early summer 2022」が発売された。ソロのオリジナルとしては、2014年の「小田日和」以来、約8年ぶり10枚目。「オフコース」でのデビューからは既に50年以上が月日が流れている。

 NHK「みんなのうた 60」記念ソング「こんど、君と」など、計9曲。楽曲や歌声、演奏の魅力もさることながら、歌詞の素晴らしさを改めて感じる。例えば、2曲目の「坂道を上って」。映画「坂道のアポロン」の主題歌たが、小田自身が高校生の時、坂道で通学した思い出につながる。♪流れた時を 今 振り返れば すべてが懐かしく ただ 愛おしい日々…。特殊な言葉ではなく、飾らない言葉、純粋な言葉であるがゆえに、確実に、こちらに届く。聴いていると、オフコースの歌の数々に浸っていた自分の学生時代の心情もよみがえってくる。

 8曲目の「この日のこと」には、涙腺を刺激される。この曲は、2001年から続いているTBSの音楽番組「クリスマスの約束」のテーマ曲として書き下ろされたものだ。

 思い出すのは、09年の番組のこと。小田や財津和夫、山本潤子ら数多くのアーティストが参加したメドレーの冒頭で、「この日のこと」を歌い、藤井フミヤ「TRUE LOVE」につないだ。あの時、番組収録の会場にいたが、圧倒的な合唱、メドレーが完遂された後の終わりのないスタンディングオベーション、小田の感無量の面持ちを今でも鮮明に思い出すことができる。あれは、長く続く番組のひとつの頂点であり、「この日のこと」がそれまでで最も輝いたひとときでもあった。

 ニューアルバムに収められた「この日のこと」は、ソロ歌唱。♪同じ時を生きていた 別々の場所で 聞かせて君の歌を その声で あの歌を…。ピアノとストリングスの伴奏で、静かに、それでいて強く、切々と語りかける。その歌声は、やはり、温かく、優しく、深い。今、ほしいものが、ここにある。

 最後の曲は「会いに行く」。フジテレビの情報番組「めざましテレビ」のテーマ曲として作られたものだが、全国で待っているファンに対する小田の思いにつながっている。♪会いに行く どこにでも その笑顔に会うために…。

 小田は現在、ツアー中。ステージでこの曲を歌っている姿、そして、その姿を自分もいつか目にすることを想像すると、さらに幸福感が募る。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。

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2022年6月15日のニュース