「カムカム」るいがラジオで安子の思いを聞く場面 演出側「緊張感で震えながら撮った」

[ 2022年4月5日 08:15 ]

連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」第109回で、ラジオを聞くるい(深津絵里)(C)NHK
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 【牧 元一の孤人焦点】5日放送のNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」第109回で、アニー・ヒラカワこと安子(森山良子)がラジオを通じ、るい(深津絵里)に語りかける場面があった。

 安子は日系米国人のキャスティング・ディレクター、アニーとしてラジオに出演。自身が初めて見た映画などについて英語で語っていたが、初代桃山剣之介の映画について問われると、言葉を詰まらせ、しばらく絶句。あわてたパーソナリティーが曲を入れようとすると、突然、日本語で「見ました」と話しだした。その映画は、戦死した夫の稔と一緒に見た思い出深い作品だった。

 そこからの話は、結婚や出産、事故でるいの額に傷を負わせてしまったことなど、安子の体験談。感極まった声で「るい」と呼び掛け、ずっと胸の内に秘めていた思いを明かした。

 その場面は、ラジオのスタジオで話す安子の映像ではなく、クリスマス・ジャズ・フェスティバルの楽屋で番組を聞く、るいのアップの映像がほとんどだった。

 演出の安達もじり氏は「このドラマで、ラジオは人と人をつなぐ物。人と人がつながる瞬間は、このドラマではずっと、ラジオで話す側ではなく、聞く側を描いてきた。今回の場面も、るいとひなたを中心に表現することで、安子の気持ちを伝えたいと思った。安子がどういう思いを抱いてきたかは、るいの気持ちに寄り添って見せた方がよく伝わるのではないかと考えた」と話す。

 るいは突然、ラジオで安子に語りかけられて驚愕(きょうがく)の表情。安子の本心を聞き続ける中で体を小刻みに動かし、瞳を泳がせ、一言も発することなく、涙をあふれさせた。

 安達氏は「収録した時、もの凄い緊張感があった。あの場面は台本にすると1話分くらいの長さがあった。現場では、事前に収録した森山さんの声を、ラジオから流れてくるという設定で再生した。深津さんには、この期に及んで何も言うことはなかった。リハーサルの時、深津さんに『本番に取っておいてください』と言って、段取りだけ確認した。1発撮りで、ほぼドキュメンタリーを撮っている感覚だった。緊張感で震えながら撮った」と明かす。

 制作統括の堀之内礼二郎氏は「ラジオは人の存在感、ぬくもりが伝わるメディア、人と生きるメディアだと思う。その温度感が伝わる描き方だった。るいがラジオを聞いている表情の映像には不思議な没入感があり、このドラマらしいシーンだと感じた」と話す。

 深津の表情だけの芝居は、安子が長く深く秘めていた思いを映す鏡のような役割を果たし、この朝ドラで屈指の名場面を生んだ。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。

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2022年4月5日のニュース