吉右衛門さん、さいとう・たかをさん死すとも“鬼平”は不滅

[ 2021年12月8日 14:56 ]

中村吉右衛門さん
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 【佐藤雅昭の芸能楽書き帳】歌舞伎俳優の中村吉右衛門さんが11月28日、心不全のため77年の俳優人生に幕を引いた。昨年11月の坂田藤十郎さん、今年5月の片岡秀太郎さんに続いて人間国宝を失った歌舞伎界の衝撃は計り知れない。

 立役の第一人者として活躍し、「勧進帳」の武蔵坊弁慶や「仮名手本忠臣蔵」の大星由良之助、「熊谷陣屋」の熊谷直実などが十八番だった吉右衛門さんだが、映像の世界にもきっちりと名前を残した名優だった。

 篠田正浩監督(90)の「心中天網島」(1969年)の紙屋治兵衛、熊井啓監督「お吟さま」(78年)の高山右近、勅使河原宏監督「利休」(89年)の徳川家康など、スクリーンに存在感を焼き付けている。

 とりわけフジテレビの時代劇「鬼平犯科帳」は映像の方の代表作と言って異論は出ないだろう。“鬼の平蔵”の異名を取る火付盗賊改方の長官・長谷川平蔵役を89年から2016年にかけて映画と連続ドラマ、スペシャル版合わせて150本も演じ、お茶の間人気を定着させた。

 池波正太郎の時代小説が原作。オールドファンにとっては実父の八代目松本幸四郎(初代松本白鸚)が69年から72年にかけてNET(現テレビ朝日)で演じた“鬼平”も懐かしいが、息子の吉右衛門さんもきっちりとはまり役にしてみせたのはお見事。ちなみに69年版などに木村忠吾役で出演した古今亭志ん朝(01年10月に63歳で死去)が朗読CDをリリースし、話題を呼んだのも記憶に残っている。

 「鬼平犯科帳」は93年からリイド社の月刊誌「コミック乱」で連載が始まったが、劇画を手掛けたのがさいとう・たかをさんだった。「ゴルゴ13」だけでなく、この“鬼平”、そして「仕掛人 藤枝梅安」も絶大な人気を誇った。

 さいとうさんも今年9月24日にすい臓がんのため84歳で彼岸に渡ったが、リイド社は連載の継続を発表し、ファンを喜ばせている。故人が種を蒔いた分業制が花を咲かせた形だ。

 実写版にも動きがある。今年3月、日本映画放送やスカパー!などが母体となって2024年5月の公開を目指し映画版の製作を発表。演出は杉田成道氏(78)が当たり、長谷川平蔵には吉右衛門さんのおいに当たる十代目松本幸四郎(48)がキャスティングされた。初代の祖父(69~70、71~72年)、二代目の丹波哲郎さん(75年)、三代目の萬屋錦之介さん(80~82年)、そして四代目の叔父さんに続いて五代目の平蔵となる。「実写でコミックで、“鬼平”は永久に不滅です!」という池波さんの声が天国から聞こえて来そうだ。

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