乙武洋匡氏 障がいの先天性と後天性 プレーに見えるそれぞれの特色

[ 2021年9月3日 05:30 ]

ロボット義足で歩行に挑戦した乙武洋匡氏
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 【乙武洋匡 東京パラ 七転八起(10)】障がい者には先天性か後天性かという違いがある。こうした違いは競技において有利に働くのか、はたまた不利に働くのか、私は興味を抱いていた。というのも、私は3年半前からロボット義足で歩行に挑戦するプロジェクトに参加しているのだが、生まれつき四肢のない私には二足歩行していた時期がないため、ただ筋力を鍛えるだけでなく、歩行の感覚というものを新たに獲得する必要があり、そこに大きく苦労させられたのだ。

 先天性と後天性、どちらが有利なのか。まずは車いすを使用する競技について何人かのアスリートに話を聞いてみた。彼らが口をそろえて答えたのは「幼い頃から車いす生活を送っている選手のほうがチェアワーク(車いすの操作)にたけている傾向がある」とのことだった。しかし、彼らはこうも言った。

 「だけど健常者として激しいスポーツをしていた経験も、やっぱり競技にはプラスに働くので、一概にどちらが有利とは言えない気がします」

 義足を使用するアスリートにも何人か話を聞いたが、「車いす」を「義足」に置き換えただけで、ほぼ同じ答えが返ってきた。

 視覚障がいはどうだろう。ゴールボール女子で元日本代表キャプテンを務めた小宮正江さんは、こんな話をしてくれた。

 「見えていた経験がある選手は、コーチからの指示を映像化してイメージすることができるんです。でも、先天性だとそれが難しい。ただ、物心ついた時から目が見えていない選手は、最初から耳を頼りに生きてきた分、私たちには聞き取れない音まで聞こえていたりする。何が強みに働くかはわからないですね」

 これまた一概には言えないということになりそうだ。

 選手たちの話を聞く限りでは先天性か後天性かで有利不利が生じるということはなさそうだ。だが、それぞれにプレーの特色が生まれることは間違いない。そうした違いに注目すると、さらに奥深い観戦になるはずだ。

 ◇乙武 洋匡(おとたけ・ひろただ)1976年(昭51)4月6日生まれ、東京都出身の45歳。「先天性四肢切断」の障がいで幼少時から電動車いすで生活。早大在学中の98年に「五体不満足」を発表。卒業後はスポーツライターとして活躍した。

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2021年9月3日のニュース