「半分、青い。」北川悦吏子氏 故郷への思い“岐阜舞台”は直前 地元凱旋「まだ母が待っているような…」

[ 2018年9月19日 05:00 ]

「半分、青い。」脚本・北川悦吏子氏インタビュー(4)

9月2日に出身の美濃加茂市で行われた「第17回坪内逍遙大賞」授賞式に出席した北川悦吏子氏
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 今月29日に最終回を迎えるNHK連続テレビ小説「半分、青い。」(月〜土曜前8・00)の脚本を手掛けた北川悦吏子氏(56)が構想5年、執筆1年半にわたった創作の日々を振り返った。今月2日には、出身地の岐阜県美濃加茂市で行われた「第17回坪内逍遙大賞」の授賞式に出席。地元を舞台に今作を書くことは直前に決定したと、意外な事実を明かした。地元凱旋を飾った北川氏に故郷への思いを聞いた。

 朝ドラ通算98作目。フジテレビ「素顔のままで」「ロングバケーション」「空から降る一億の星」やTBS「愛していると言ってくれ」「ビューティフルライフ」「オレンジデイズ」など数々の名作を生み“ラブストーリーの神様”と呼ばれるヒットメーカー・北川氏のオリジナル脚本。岐阜県と東京を舞台に、病気で左耳を失聴した楡野鈴愛(にれの・すずめ)が高度経済成長期の終わりから現代を七転び八起きで駆け抜ける姿を描く。

 同市が生んだ日本近代文学の先駆者・坪内逍遙の功績を称えて制定された「坪内逍遙大賞」。同市出身者の受賞、脚本家の受賞は初となった。

 授賞式後に行われた記念のトークショーの最後のあいさつ。北川氏は「実はドラマの舞台を岐阜にするのは、ギリギリまで決まりませんでした」と切り出し「自分の故郷を書くのが恥ずかしかったんですが、(制作統括の)勝田(夏子チーフプロデューサー)さんと(チーフ演出の田中)健二さんが『北川さんの故郷で書いたらいい』とおっしゃってくれて。今は、実家から近い場所(美濃加茂市文化会館)でトークショーができて、皆さんに来ていただいて、本当によかったなと思っています。(早大進学まで)岐阜に生まれ育って、こうやって戻ってこられて、よかったなと思います」と感慨深げに語り、地元凱旋を締めくくった。

 トークショー終了後に「ホームドラマを避けてきたのと同じように、自分の故郷を舞台にするのは恥ずかしくて。できれば知らない土地を書きたいと思っていました」と明かした。

 ただ、未知の場所をゼロから取材する時間はなく「生まれ育った岐阜なら、まず言葉ができる。それに町の雰囲気も分かる。NHKさんに後押ししていただいたこともあり、岐阜に決めました。恥ずかしさよりも、自分の体験を取りました。最初は全部標準語でいくことでOKも出ていたのですが、方言も採り入れることにして。少しずつ岐阜に近づいていきました」

 岐阜県南部に位置する美濃加茂市は人口約6万人。美濃太田駅は名古屋駅から特急(JR)で約50分。北川氏が生まれ育った実家は、駅から数百メートルのところにあった(現在は別の建物になり、実家は市内の別の場所に)。当時の駅前通りには劇中の「ふくろう商店街」のアーチと同じようなものがあり、北川氏の実家から歩いてすぐのところには「岡田医院」(劇中の病院名と同じ、現在はない)もあった。

 「故郷のことがかなり投影されていますよね?」と水を向けると「3日で1話(全156話)書き上げないといけなかったので、何かを恥ずかしがっている時間は全くなくて。とにかく本をおもしろくすることが第一。劇中の病院名も実際にあった岡田医院とすれば、自分の記憶がよみがえるじゃないですか。使えるものは全部使おうと。自分のことを知ってほしいということは微塵もなく、単純に背に腹は代えられないということの連続でした」と笑った。

 鈴愛の人生を変えた岐阜の郷土料理「五平餅」は一気に全国区に。舞台設定は奏功した。

 「今日も岐阜に帰ってくる時、まだ母が待っているような気がして。私が33歳の時に亡くなりましたが、母が弱音を吐いたところを見たことがありません。私がそもそも腎臓が悪くて上京し、その頃は減塩しなければならず、外食すると必ず母が減塩しょうゆの小さいパックを持っていて『はい、エリちゃん』と渡してくれたり、いつも心配してくれました。一緒のお布団で寝る(第6話、4月7日)のも自分の幼い頃の記憶で、晴さん(松雪泰子)を見ていると、母を思い出します。母のことは大好きですが、『人は死んだら、いなくなる』としか思っていないので、今回、朝ドラで地元を描いて、母が天国で喜んでいるとは思っていないんです。それでも、やっぱり岐阜と私は縁があるんだなと。それはそれで意味があることなんだと思いました。さっきも同級生や親戚とか、楽屋に見知った顔が入ってくると、ホッとしたりして。遠ざけても遠ざけても、安心する場所なんだなぁと思いました」と実感がこもった。

 最後に今作を完走して感じる岐阜の魅力を尋ねた。「本当に緑が濃いですよね。田舎って、どこも同じように見えるかもしれないですが、それがいいんじゃないですかね。ほとんどの故郷は埋もれてしまいそうな場所かもしれませんが、逆に自分だけの記憶がそこにあるわけなので」。一見、平凡に映る故郷の思い出を拾い上げ、生き生きと、そしてカラフルに作品に焼き付けた。

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2018年9月19日のニュース